最後までセネリオは残っていたが、冷め切った夫婦が発する独特の雰囲気に耐え切れなくなったのか、踵を返し退室する。
部屋の中に響くのは、ドアの開閉音。
同時に、ガルシアが声を発した。
『生き返った気分だ』
それについてリリアは沈黙を保ち、反射的に視線を逸らしてしまう。
目の前にいるのは間違いなく夫だが、これを夫と瞬時に認識できるほど器が大きいわけではない。
それ以前に夫婦関係が破綻しているので、ガルシアという人物を夫と認めているかどうか時点で怪しかった。
「どうして……」
『何?』
「どうして、そこまで生に執着するの。そんな姿にまでなって、私は生き続けたくない……」
やっとの思いで発したのは、リリアの本音だった。
どうして、生きようとする。
何故、寿命に逆らう。
このまま、亡くなればいい。
語られる言葉の数々が愉快だったのだろう、ガルシアの笑い声が響く。
ガルシアは何年も前から、リリアの本音に気付いていた。
歳の離れた自分と結婚した意味と、夫婦生活が破綻していることも。
そしてリリアが年下の愛人を作っていることも、何もかも知っていた。
ガルシアに本音を突かれたことに動揺を隠せなくなったのだろう、リリアの身体が小刻みに震え、一歩一歩と後退していく。
ガルシアが、機械と同化した理由――
権力の保持の他、妻を縛り付ける。
だから、この道を選ぶ。
自分が死ねば、配偶者である妻に財産が行ってしまう。
二人の間に子供がいない――というより、リリアが子供を持つことを拒んだ。
金を持った高齢者と結婚し、早死にを望む。
得た財産で若い愛人と、悠々自適な生活――というのを送らせない為に、ガルシアは機械と同化した。
執着。
いや、執念か。
憎悪に似たガルシアのやり方に、リリアの顔から血の気が引いていく。
勿論、リリアもイシュバールの高い技術力を知っている。
彼等によって処置を施されたのだから、何十年も普通に生き続けるだろう。
これから白い円柱型の機械に化けたと夫と生活することに嫌悪感を抱いたのか、リリアの悲鳴が響く。


