「ハーナス様が、お呼びに……」
「わかっているわ」
「でしたら……」
しかしリリアは、すぐに夫のもとへ行くことはしない。
行くことを躊躇うというより、どちらかといえば億劫といっていい態度。
だが、ガルシアが呼んでいるので、このままでいいというわけではない。
セネリオは状況を説明しつつ、手術後のガルシアに会って欲しいと頼む。
セネリオの説得に負けたのか、リリアは渋々ながら了承する。
だが、表情は優れなく、夫がいる部屋の前に行った時、盛大な溜息が付かれた。
リリアの反応にセネリオは頭を振ると、理由を尋ねる。
「……殆ど、ないのでしょう」
「肉体ですか?」
「そう」
「先程申しましたように、肉体の殆どが弱り使い物にならず……ですので、排除いたしました」
「夫……なのかしら」
「ハーナス様には、間違いないです」
「……そうね」
セネリオの言い方に不満なのだろう、リリアは素っ気ない言い方をする。
すると夫と会うことを決心したのか、自ら進んで部屋の中に立ち入る。
リリアの登場に科学者達は手を止めると、ガルシアを紹介する。
「これが……」
『驚いたか』
部屋に響く声音に、リリアの身体が過敏に反応を示す。
夫の声音ではないが、この喋り方は間違いなく夫そのもの。
それも目の前に置かれている機械から聞こえるのだから、動揺を隠せない。
「あ、あなた」
『そうだ』
「こ、これが……」
『何を驚いている』
「驚かないことは……」
『どうだ、この姿は』
そう尋ねられて、即答できるものではない。
まさか夫がこのような姿に変貌していると予想できなかったのだろう、リリアの身体が震えていた。
夫婦のやり取りを眺めていた科学者達は邪魔になってはいけない――というより居たくないというのが本音なのだろう、一人一人退室していく。


