巡り合いの中で


 イシュバールの民は、神を信仰していない。

 しかし――

 目に見えない‘何か’の力を感じる。

 アゼルが息子の将来を考えていると、二人のもとに一人の科学者がやって来る。

 セネリオだけではなくアゼルもいることに驚いたのだろう、反射的に背筋を伸ばすと「クレイドを呼びに来た」と、伝える。

 科学者からの言葉にアゼルはセネリオに行くように促すと、踵を返し立ち去った。

 父親の去る姿を一瞥した後、セネリオは呼びに来た科学者に視線を向けると「検査の途中で、何か重大なトラブルが発生したのか」と、何処か強張った表情を浮かべ、尋ねていた。

「検査の途中ですが、見て頂きたいことが……」

「不都合な点が、出たのか?」

「思った以上に、酷く」

「見たところ、弱っていた」

「これを……」

 科学者から手渡されたタブレット端末を受け取ると、表示されているガルシアの身体情報を眺める。

 確かに説明を受けた通り、身体は衰弱しているといっていい。

 これでは肉体の殆どを残すのは難しく、また内臓もこのままにしておいても利点はなく、逆に延命の足を引っ張ってしまう。

 できるものなら、人間らしく――

 と、セネリオは考えていたが、これでは人間らしく生き続けるのは難しい。

 こうなると人間と機械の差は曖昧になってしまい、アゼルが言っていた「価値観」の世界になってしまう。

 だが、ガルシアは自身が人間とは呼べない状況になろうとも、生きることを選択した。

 なら、それを実行しないといけない。

 セネリオは嘆息しつつタブレット端末を科学者に帰すと、現在の準備の状況について聞く。

「完了しております」

「早いね」

「この状況ですと……」

「確かに」

「今回、クレイドは?」

 その質問について、セネリオは即答しない。

 今回の処置は他の科学者に任せ、自分は側で見学してようと考えていたが、ガルシアの身体情報を確認した今、処置を行う一員に加わるべきではないかと思いだす。

 また、先程交わした父親の話が引っ掛かるのだろう、顔色が優れない。