巡り合いの中で


 老人は周囲にいる者達を見回すと軽く頭を垂れ、此方の依頼を引き受けてくれたことに感謝の言葉を述べる。

 しかし老人の言葉が引っ掛かるのか、それとも気に入らないのか、隣にいる女性の表情が優れない。

 そのことに気付いたセネリオは、気分が優れないのか尋ねる。

「長旅で、ちょっと……」

「でしたら、侍女に部屋を用意させます。横になられたら、ご気分も良くなられるでしょう」

「お気遣いは……」

「そうしてもらいなさい」

 妻の体調の悪さに、老人はセネリオの言葉を素直に受け入れるように勧める。

 夫からの言葉に女性は躊躇いつつも、受け入れることにした。

 女性からの返事にセネリオは後方で待機していた科学者に視線を合わせ側に呼び寄せると、侍女にこのことを伝えて欲しいと頼む。

 命令を受けた科学者が立ち去るのを見計らったかのように、セネリオが口を開く。

 勿論、事前に依頼内容は聞いているが、確認というかたちで本人の口から依頼内容の説明を求める。

 依頼者の名前は、ガルシア・ハーナス。

 惑星アルジャーナの大臣。

 その人物が母星を離れイシュバールに態々やってきたのは、老いた肉体が深く関係していた。

 ガルシアは持病を患い、余命宣告をされている身であった。

 勿論、この者の母星の医療水準も高いが、それ以上の技術を持つイシュバールに頼ったのは他でもない「延命」を願ったからだ。

 それだけなら、治療を施す医師や看護師に依頼をした方がいい。

 だが、ガルシアは医師や看護師ではなく、科学者の方に延命を依頼してきた。

 その意図を何となく理解しているセネリオは、裏に隠されている事実を聞き出そうとするが、寸前でガルシアにはぐらかされてしまう。

「部屋の用意は……」

「どうなっている」

「多分、もう少しで……」

「それなら、案内して貰いなさい」

「……そうさせて頂きます」

 それはまるで、妻を早くこの場から退室させたいかのような言い方であった。

 一方、女性も夫と一緒にいたくないのか、さっさと部屋から退室してしまう。

 両者の間に存在する殺伐とした雰囲気に、多くの者がたじろいでしまう。

 同時に判明するのが、夫婦仲が冷え切っているという事実。