文無しというわけではないが、科学者であるセネリオの方が何倍も多く稼いでいる。
いや、趣味での荒稼ぎを含めたら何十倍の格差が生じる。
だからこそセネリオが率先して全額支払い、アリエルの申し出を断った。
しかし、それでも引き下がらないのが彼女のいいところであり、悪いところ。
そんな生真面目とも取れる態度にセネリオは苦笑すると、アリエルにひとつの提案を持ち掛ける。
「そこまで言うのなら、チョコレートパフェ以外で付き合って貰えるかな? ライアスが忙しい時に」
「それで、宜しいのでした」
「勿論」
「それは、これからでしょうか」
「いや、仕事に戻る」
セネリオの話では、一時的な休憩がてらチョコレートパフェを食べに来たという。
午後から依頼の仕事が入っているので、それをこなさないといけないらしい。
ただその仕事は少々特殊なものらしく、体力と精神の両方が疲れてしまうので事前に体力の回復を図ったと話す。
「難しいのでしょうか」
「難しいといえば、難しいね」
「クレイドが、そのように仰るのですから……」
「言ったように、私は万能じゃない。何事も全て独りでこなせるわけではないし、周囲の手も借りる。特に今回の依頼は、単独でどうこうできる仕事じゃない。あらゆる分野の者が……」
ふと、途中で言葉を止める。これから先は専門的な分野が混じる他に、依頼者のプライベートも関わってしまう。
依頼には守秘義務が課せられるので、信頼しているとはいえアリエルにあれこれと話していいものではない。
だからこそ途中で言葉を止め、一言「頑張るよ」と、言った。
「クレイドなら、大丈夫です」
「有難う」
過去、ライアスに何度か同じようなことを言われてきたが、アリエルに言われると何か不思議な気持ちになることに、セネリオは気付く。
嬉しい――とは違う、何とも表現し難いモノ。
だが、それを明確に言葉に表すことはできず、ただ温かいモノが身体の奥底に広がっていく。
後方で佇むアリエルに「戻ろうか」と声を掛けると、特に寄り道をすることなく研究所へ戻る。
道すがら抱くモノについて整理しその意味を導き出そうとするが、なかなか正しい回答が出ない。
それでも唯一判明しているのはアリエルと一緒にいると楽しく、堅苦しさを感じない。


