だからといって、彼女達の行動を否定することはしない。
否定したところで何の利点もなく、それどころか行ってしまえば悪い印象を与えてしまう。
また、このようなことに権力を行使するのは馬鹿馬鹿しく、それに「ファッションは個々の自由」と言い、セネリオは苦笑する。
それに流行っていたのは短期間の間で、セネリオと同等の意見を持つ者が多かったのだろう、今はそのようなことを行っている人物は殆どいない。
それにより生活し易い環境が取り戻され研究が捗ると話すと、今の話で同情心が湧き出したのだろう、アリエルの表情に切なさが混じる。
「お話を聞いていますと、相当……」
「あのような流行は、懲り懲りしたよ。それにあの件でわかったのは、何事も程々が一番……ってことかな。まあ、これについては生活していく上で、結構重要になるかもしれない」
「そのことは、心得ています」
「流石、姫君に仕えていた侍女だけある」
「いえ、そんな……」
「……やっぱり、ちょっと違う」
「何か?」
「いや、何でもない。個人的な……そんなところさ。さて、食べたからそろそろ店を出ようか」
「今日は誘って頂き、本当に有難うございます。このような美味しい食べ物は、はじめてでした」
「また、付き合ってくれると嬉しい」
「そう、仰るのでしたら」
「お互い、気晴らしは必要だからね。仕事ばかりしていると、息が詰まってしまいストレスになる」
そう言いつつセネリオは椅子から腰を上げると、会計へ向かう。
同じようにアリエルも椅子から腰を上げると、セネリオの後を追う。
特に何ら躊躇うことなく、セネリオは二人分の会計を行っていた。
それを知ったアリエルは自分の分は支払うと申し出るが、首を横に振られてしまう。
「いいよ」
「で、ですが……」
「生活費は、大事にしないと」
本格的に侍女として働きはじめているが、給料が支払われるのは来月から。
それにアリエルは、身ひとつでイシュバールにやって来た。
何も持たないアリエルが生活に困らないようにと、給料日までの一時凌ぎというかたちで、一ヵ月分の給料の半分程度を渡している。


