セネリオはライアスに視線を向けると「知っている名前か?」と尋ねるが、ライアスは首を横に振る。
姫君の名前を知らないという二人の反応に、アリエルは自分が仕えている姫君は有名な方と話す。
そして美姫として名を知られ、多くの殿方から求婚を受けていると説明する。
「求婚……ね」
「耳が痛い話ですね」
「……煩い」
「申し訳ありません」
しかし、知らないものは本当に知らない。
それにアリエルが言うように名の知れた美姫なら、イシュバールの跡取り息子であるセネリオに話が来ないわけがない。
各惑星の権力者がセネリオ相手に、自分の娘との縁談を持ち掛けて来る。
それだけ、イシュバールが持つ力は魅力的だった。
だが、持ち掛けられた縁談の中にアリエルの主人レナ·シャルロットの名前は存在しない。
「で、どういう暮らしをしている」
「どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だけど」
「侍女として、姫様の身の回りのお世話を……」
「姫君は、人前に姿を晒す?」
「いえ、滅多に……」
「そうか」
「何故、そのようなことを……」
「ちょっと、確かめたく」
セネリオの意味有りげな言い方に、アリエルは首を傾げてしまう。
そして二人が主人の名前を知らないことにアリエルは、彼等が暮らしている国は遠い場所にあるのではないかと思いはじめる。
また鎖国を行っていて、他国の情報が入ってこないのか――と、予想する。
アリエルの意見にセネリオは吹き出し、ライアスは呆れてしまう。
彼等の反応にアリエルはキョトンっとし、自分が何か失礼なことを言ってしまったのかと聞き返す。
彼女の言い分にライアスは何かを言いそうになるも、寸前でセネリオに制され強制的に言葉を封じられる。
「面白いね」
この時代、イシュバール相手にここまで言える相手など滅多に――というか、殆どいない。
それだというのにアリエルは、面と向かって面白いことを言って見せる。
無垢なのか、それとも知識が乏しいからか――アリエルの言動にセネリオは、彼女の故郷は未開惑星ではないかと思いはじめる。


