「あ、あの……」
「何?」
「その……色々と……」
「お礼?」
「……はい」
「いいよ、別に」
まさかこのようなことを言われるとは思ってもみなかったのか、セネリオは歯切れが悪い言い方しかできない。
セネリオは椅子に腰を下ろすと、アリエルも椅子に腰掛けるように促す。
一方ライアスはいつでも動けるようにと、後方で待機しアリエルの動きに注目する。
「珍しい、機械が」
「機械?」
「知らない?」
「意味が……」
「わからない?」
「……はい」
「風呂、入っただろう?」
セネリオからの言葉にアリエルは頷くと、温かいお湯が瞬時に出てくることに驚いたと話しだす。
どのようにして、お湯を出しているのか。
まさか見えない場所に人間が待機していて、自分の為にお湯を用意してくれているのか――と、文明人らしからぬ言い方をする。
また、泡立つ液体はどのようにして作られているのか。
それ以上にこのような便利な代物を所持しているということは、位が高い人物が暮らしている建物なのかと、これまたとんちんかんな言い方をしてくる。
アリエルからの逆質問にセネリオは目を見開くと、頭痛を覚える。
(これは、また……)
作り話――とも捉えられなくもないが、アリエルの言動から嘘を付いているようには見えない。
それどころか自分がスパイ疑惑を掛けられていること自体、気付いていない様子だ。
しかしこれだけではまだ「未開惑星の住人」とは判断し辛いので、新たなる質問を行う。
「普段、何をしている」
「侍女として、主人に仕えていました」
「侍女」という単語に、セネリオは医務室でのやり取りを思い出す。
アリエルは行方不明になった主人を捜している途中で、雷の直撃に合った。
そして、その主人というのは一国の姫君。
セネリオはアリエルの主人のフルネームを尋ねるが、全く聞き覚えのない名前であった。


