「雷?」
「ほ、本当です」
「ク、クレイド」
「調べないと、何とも……」
少女の話が正しいというのなら、全身がずぶ濡れで服が汚れていた理由の説明がつく。
しかし少女が言っている内容は、簡単に頷けるものではない。
雷の力によって空間が歪んでしまった――と考えられなくもないが、そのようなことは学会等で話題に上がったことはない。
「協力者は?」
「いません。捜しに行くことは、内緒にしていまして……これは、私一人で行ったことです」
「イシュバールに、攻撃を仕掛けるのではないのか? 君はおとりとなって、周囲の目を誤魔化す」
「攻撃って、何でしょうか」
「しらを切るのか!」
「ライアス、落ち着け。大声を出すと、怖がる。それに不明な点は多いが、嘘を言っているようにも思えない」
「しかし、捕まった時にこのように言えと命令されているのかもしれません。侵入するのですから、用意周到に……」
「確かに、それも考えられる」
セネリオはライアスの言動を制するが、考えに一理あるので強く言うことができない。
それに少女の味方をし続けるのは得策ではないので、医師を呼び寄せると小声で命令を出す。その命令というのは、少女の体内にGPS機能と通信を妨害する機能を持った機械を埋め込むというもの。
これにより少女がどの場所へ行こうが瞬時に位置を把握することができ、また外部との通信を行うことができない。
セネリオからの命令に医師は頭を垂れると、少女に気付かれないように検査の時に埋め込むと話す。
これで下手に行動できず、少女の移動範囲を制限できる。
「で、いいか?」
「余計な意見を――」
「いいよ。ライアスの言葉は正しい。監視の結果、黒と出た時は……適切な判断を下すから」
上に立つ者は、優しいだけではやっていくことはできない。
時に非情な選択を下し、民に力と絶対的な発言権を示さないといけない。
そのことを知っているからこそ、少女に優しく接していようが、場合によってはその命を奪わないといけない。
そう語るセネリオにライアスは、敬意を示す。


