「それで、何と言っていた」
「何も、言っていなかった」
「お前は、どうしたい」
「俺は……」
言い難いのか、それとも何と言えばいいのかわからないのか、セネリオは口籠ってしまう。
いつもであったらすぐに自分の意志を言葉として表すのだが、今日に限ってそれを行わない。
息子の態度にアゼルは、周囲の噂話を思い出す。
それは、セネリオとアリエルの関係だ。
二人は、付き合っているわけではないが仲がいい。
特にセネリオがアリエルに興味を抱き、何処かへ連れて行っている。
異性関係に興味がなかったセネリオにとっては異例で、だからこそ周囲が騒ぐ。
当初アゼルは、アリエルが「多くを知らない、未開惑星の住人だから」という理由で、セネリオが連れ回していると考えていた。
それは一種の興味本位のようなもので、科学者の性(さが)といっていい。
しかし現在の反応を見ていると、それが間違いなのではないかと気付く。
「言いたいことがあるのなら、きちんと伝えた方がいい。もし、戻ると選択した時、遅いぞ」
「アリエルは、戻るのか?」
「仮定した場合だ」
やはり、いつもと違う。
そんな息子にアゼルは、微笑を浮かべる。
だが、これは悪いことではない。
誰もが通る道――といっていいものだ。
「どうすればいい?」
「それは、お前が決めないといけない」
「俺が?」
「誰かに決めてもらったことは、一時的に納得するが後で後悔が付き纏う。だから、自分で決めろ」
「……わかった」
「だが、アドバイスは送ることはできる。このように悩むことがあったら、私のところに来るといい」
そこで一旦言葉を止めると、アゼルは更に言葉を続ける。
「自分の心に正直になれ」というのが、アゼルのアドバイス。
セネリオは気付いていないが、この症状は「恋煩い」といっていい。
どれだけ科学力が発展しようが、特効薬を開発することはできないほどの難病だ。


