巡り合いの中で


「ゆっくりと、休むといい」
 それについてアリエルは、即答できないでいた。

 来た当初であったら「帰りたい」と言っていたが、今は迷いが生じてしまう。

 イシュバールでの便利な生活が楽しいことも勿論であったが、折角仲良くなれた者達と離れるのも惜しい。

 それに、他にも理由が存在する。

 表情に影を落とすアリエルに、セネリオは「悪いことを聞いてしまった」と謝り、それ以上これについて尋ねることはしない。

 それについてアリエルは頭を振るが、言葉はなかった。


「今日は、有難うございます」

「いや、いいさ」

 重苦しい雰囲気に耐え切れなくなったのか、セネリオが椅子から腰を上げ、部屋から立ち去ろうとする。

 だが、その前にミーヤに挨拶をしないといけないので、セネリオはミーヤの頭を撫でてやる。

 撫でられたことに間延びした声音で答えると、ドア付近まで一緒について行った。

 ドアが閉まり、空間を遮断する。

 と同時に、セネリオは嘆息してしまう。

 何故、あのような質問を行ったのか。

 勿論、アリエルと一緒にいるのが楽しいからだ。

 ライアスと一緒にいる時とは違った楽しさがあり、立場に縛られることなく「悪いことは悪い」と言うことのできる勇気を持っている。

 イエスマンはいらない。

 そう思っていたセネリオにとっては、新鮮そのもの。

 いつかアリエルは故郷の惑星に戻らないといけないが、セネリオがこれを拒む理由はない。

 ただ――

 寂しさも存在した。

 その気持ちを振り払うかのように、セネリオは頭を振る。

 そして何事もなかったかのような表情を浮かべ、自室へと戻って行く。

 その途中幾人かの侍女とすれ違うが、誰一人としてセネリオの心情に気付いていない。

 心の中に広がるモヤモヤとした言い知れぬ存在を打ち払うには、仕事に集中するしかない。


 到着と同時にセネリオはパソコンに向かうと、中断していた仕事を再開する。

 ただ普段の彼とは違い、キーボードを叩く指に力が入っている。

 それはまるで、ストレスを発散するかのような荒々しい行為。

 それに徐々に表情が強張り、険しい目付きへと変化していくのだった。