『いえ、まだ……』
「仕方ない」
『も、申し訳ありません』
「いや、いいよ。見舞いの品を持たずにアリエルのもとへ行くから、後で運んでおいてほしい」
『かしこまりました』
そもそも、見舞いの品を30分で用意するのは、なかなか難しい。
何より、セネリオの仕事をこなす速度が速すぎた。
通常であったら、倍以上の時間が掛かる。
しかしセネリオは、30分で切のいい部分まで完成させた。
これでは、侍女達の用意は間に合わない。
セネリオは通信を切ると、椅子から腰を上げ部屋から出て行く。
向かうは、アリエルが暮らしている部屋。
彼女の私室は、アゼルとセネリオが暮らしている建物の中に存在している。
働いている大半の侍女は外からの通いだが、アリエルは別の世界から迷い込んだので外に家は持っていない。
それでは可哀想と、アゼルは客人専用の部屋を改造し、彼女が暮らせる部屋とした。
ひとつのドアの前に立つと、アリエルを呼ぶ。
だが、彼女からの返事はない。
このまま立ち入ってもいいが、それは絶対にやってはいけないと言われているので、廊下で待つ。
すると、ドアが開かれた。
「ク、クレイド」
「元気?」
「ど、どうして……」
「侍女から聞いた。風邪、ひいたんだろう? 雨の日に、連れ出したのがいけなかったのかな」
「……違うと、思います」
「違う?」
「それより、どうぞ……」
オドオドとしながら、アリエルはセネリオを招き入れる。
訪問者の存在にミーヤが気付いたのか、猫ちぐらから顔をだした。
ミーヤが猫ちぐらを使っていることに、セネリオの表情が緩む。
もし使われていなかったらどうしようかと、考えていたくらいだ。
ミーヤの様子を見るところ、それは取り越し苦労といっていい。
それにセネリオの訪問を歓迎しているのか、ミーヤが彼の足元に近付いて来る。


