巡り合いの中で

 ハーブや花の匂いが、心地いい。

 アリエルにとって、お風呂は憩いの時間。

 以前の世界では、身体をこんなに綺麗に洗うことができなかった。

 清潔に無頓着というわけではなく、それを行うだけの技術が存在していなかったのだ。

 アリエルは身嗜みを整え、尚且つ清潔好きなので、このように多くの水を使って身体を洗うことができるのは有難かった。

 いつものように、念入りに時間を掛け入浴する。

 その時の彼女の表情は、とても穏やかだった。

 入浴後、肌触りがいいバスタオルで全身を拭き、寝間着に着替える。

 そして侍女仲間から貰ったドライヤーで、髪を乾かす。

 最初、冷風と温風が出てくる妙な機械に驚いたが、今では普通に使える便利な代物となった。

 髪が濡れていると、何かと不便だった。

 しかし今は、その心配がない。

 一通り髪を乾かした後、櫛で丁寧に梳く。

 イシュバールに来た当初は大分髪が傷んでいたが、シャンプーとリンスのお陰で、改善してきた。

 それに以前では味わうことのできなかった、サラサラの髪が気持ちいい。

 こんなに幸せでいいのか――

 と考えなくもないが、これが普通の生活。

 文明の差。

 それは、小さな幸福から感じ取ることができた。

 同時に驚かされるのが、人間の適応能力。

 イシュバールに来た時は、機械という物の存在を知らず、全てが魔法によっての奇跡だと勘違いしていた。

 そしていざ機械を使おうとすれば使い方がわからず、破壊する毎日。

 周囲は苦笑し「知らないのだから、仕方ない」と言っていたが、アリエルは失敗の連続に落ち込む。

 だが、セネリオや侍女仲間のお陰で、ある程度の機械は普通に使いこなせるまで成長する。

 自分が機械を使っていることに感動を覚え、更にイシュバールに溶け込んできていることを実感する。

 アリエルは使用していたドライヤーと櫛を仕舞うと、寝室へ戻る。

 と同時に、ミーヤの鳴き声が響く。

 待っていました。

 そのように言いたいのだろう、ミーヤは猫ちぐらから出て来ると、アリエルの足元に擦り寄ってくる。

 いつまでもミーヤと遊んでいたいが、明日も仕事があるので徹夜をするわけにはいかない。

 また一緒にベッドで寝られないので、ミーヤを猫ちぐらの中に戻すことにした。