そもそもアリエルの認識は国単位なので、このような惑星規模の話についていけるわけではない。
アリエルは暫く惑星を凝視していると、この場所では雨が降っていないことに驚く。
彼女の疑問にセネリオは、この場所は宇宙なので天候の影響を受けないと説明する。
そして、惑星の表面を覆っている灰色の煙のようなモノが雨雲で、あの下だけ天候が悪く雨が降っている。
そのように丁寧に話しても、やはりアリエルは理解することができなかった。
これも基礎知識不足が深く関係し、このような状況で説明されても許容オーバーになってしまう。
現にアリエルは今の短い説明だけでいっぱいいっぱいだったらしく、何度も首を傾げていた。
(なるほど)
アリエルの姿に、セネリオは苦笑する。
未開惑星の住人への干渉不可――と条約で決まっているが、それには主だった理由が存在している。
しかしアリエルの姿を見ていると、別の要因も付け加えてもいいのではないかとセネリオは考える。
何も知らない者に高度な内容を教えるのは、あまりにも可哀想であった。
見下し。
とも取れなくもないが、やはり自分達が成長し、自分達で発見することに意義がある。
そうしなければ発展に繋がらず、その技術をどのように活用するか考える能力が劣ってしまう。
だから、条約は存在する。
そのようなことを考えていると、アリエルがオドオドしながらセネリオに話し掛けてくる。
「あの雲の下で、暮らしているのですね」
「そう」
「そして、大地は丸くて……」
「正解」
「では、どうして皆は知らないのでしょう?」
「アリエルの世界?」
「はい」
「一番の理由は、観測と測量技術の未熟さ……かな。これらが向上すれば、間違いだと気付く」
セネリオの説明に、アリエルは無言で頷き返す。
このあたりは専門外なのでわからないが、彼がそのように言うのだから間違いないのだろうと納得する。
同時に、かつての主人であるレナ姫がこれを見たらどのような反応をするのか――と、過去を思い出し心がチクっと痛む。


