ゼノ。
それが、彼の名前。
警備主任の名前を知り、セネリオは一言「宜しく」と、口にする。
一見、感情の籠っていない冷たい言い方に聞こえなくもないが、互いに主従関係があるのでこれはこれで仕方ない。
ふと、周囲が別の意味で騒がしくなってくる。
そのことにゼノは、いつまでもこの場にいると、見学者が予期せぬ行動を起こすと危惧する。
それに一度混乱が発生すると、収束に予想以上に時間が掛かってしまう。
そうなってしまうと二人は上に行くことができず、港で足止め状態。
その説明にセネリオは渋い表情を浮かべると、ゼノをせかす。
セネリオの言葉にゼノは頷くと、建物の奥へ案内する。
この場所は主に地位の高い者が利用する専用通路で、勿論一般の利用者は立ち入りを禁止されている。
だからだろう、先程の喧騒を耳にすることはない。
「ひとつ、お聞きしていいですか?」
「何?」
「どのように、行かれるのですか?」
この質問をゼノに聞かれるのは恥ずかしいのだろう、アリエルはセネリオだけに聞こえるよう小声で尋ねる。
彼女からの質問に、セネリオはゼノを一瞥すると「転移装置は知っているよね」と、逆に聞き返す。
それがどのような代物なのかアリエルは学習しているので、特に問題はなかった。
だが、数える程度しか利用したことがないので、いまだに「とてつもなく凄い物」という認識しかない。
「それで上に行く」
「一瞬……ですね」
「そう、一瞬」
「まだ、あの感覚には慣れていなくて……」
「軽く意識が飛ぶって感じ?」
「そんな感じです」
「慣れれば、どうってことはないよ。便利だろう? 一瞬にて、別の場所へ行けるのだから」
「まるで、魔法のようです」
「確かに」
科学万能のイシュバールにしてみたら「魔法」は非科学的な力と思われるが、これだけ便利な世の中だと、ある意味「魔法」という言葉は、適切ではないかと思えてくる。
転移装置も瞬間移動の魔法のようなもので、科学が発展していなければ作製することはできない。


