「いいよ、普通で」

 表情を強張らせ続けている警備主任に、特に気を使う必要はないという。

 しかし相手側にしてみたら、そう簡単にセネリオの言葉を受け入れるわけにはいかない。

 イシュバールの中で何か事件に巻き込まれるとは考え難いが、世の中「万が一」という言葉があるので、油断できない。

「で、ですが……」

「警備があると、混乱するよ」

「いえ、今も十分混乱しています」

 それに対し、セネリオは言い返すことができない。

 現に多くの者がセネリオの姿を見ようと、集まっている。

 これではゆっくりと見学することができず、逆に気が散って仕方がない。

 セネリオが腕を組みどうすればいいか考えていると、アリエルがおずおずと側にやって来る。

「あちらの方の意見に、従った方が……このように、多くの方々がいらっしゃいますので……」

「そう?」

「それに、困っているようですので。皆様、クレイドの身を心配しているからだと思います」

「アリエルが、そう言うのなら……」

 彼女の意見に、セネリオは警備主任を一瞥。

 確かにアリエルが言っているように、困惑している様子であった。

 それに「万が一」があった場合、全責任を取らないといけない。

 彼がクビになってしまったら、家族が路頭に迷ってしまう。

 流石にそのようなことになってしまったら一大事なので、警備主任に任せることにした。

「宜しいのですか!?」

「その方がいいだろう?」

「勿論です」

「で、彼女も一緒」

「この方は?」

「新人の侍女。色々と知りたいと言っていたから、連れて来た。日頃、世話になっているから」

「そうでしたか」

 それを聞き、警備主任の背筋が伸びる。

 侍女で尚且つセネリオが世話になっている人物なら、丁重に扱わないといけない。

 頭を垂れる警備主任に、アリエルも同じように頭を垂れた。

 二人で同じように頭を垂れている姿にセネリオは微笑を浮かべると、警備主任に名前を尋ねる。