「何?」
「いや、何でも……あるか」
「その言い方、何だか……」
「後でわかる」
「やっぱり、何か聞き出そうとしている」
「悪いか?」
「内容による……かも」
「悪い内容ではない」
不信感たっぷりの視線を向けて来る息子にアゼルは笑うと、運転手に車を出すように言う。
出発後、車内に漂うのは不穏な空気。
セネリオは父親と視線を合わせようとはせず、ただ窓の外に広がる光景を眺めている。
一方アゼルは息子の態度に苦笑しつつも、この場所で追及することはしない。
下手をすれば久し振りの食事が台無しになってしまい、セネリオの性格からして逃亡の恐れも考えられる。
しかし長い沈黙は、気分的にいいものではない。
先に口を開いたのはアゼルで、日頃の仕事について尋ねた。
「普通……かな」
「普通ならいい」
「父さんは?」
「忙しい」
「父さんの仕事内容を考えれば、忙しいのは当たり前か。逆に暇だったら、それはそれで問題だし」
「やってみるか?」
「父さんの仕事?」
「そうだ」
それに対し、セネリオは即答できないでいた。
いずれ父親の跡を継いで同等の仕事をこなさないといけないのだが、今は跡を継ぎたいとは考えていない。
それに仕事人間の父親から仕事を奪ってしまったら、ボケに発展してしまう――
と、冗談なのか本気なのかわからない言い方をする。
「人を年寄扱いするな」
「そういうことを言うから」
いつになく口の悪い息子に、アゼルは嘆息する。
だが、口が悪いのは元気の証拠であり、これはこれでいいとアゼルは考える。
いずれ巨大なモノを背負わないといけない身分なので、多少のゆとりも必要となってくる。
だから信頼する友だけではなく、支えとなる異性も必要だ。


