セネリオがアリエルを連れて行ったのは、一般的な動物病院。
登録に関して全てセネリオが行ってくれるものだとアリエルは考えていたのだろう、見知らぬ建物に連れて来られたことに不安感を覚えてしまう。
周囲を見回し、思わずミーヤを抱き締めている腕に力が入る。
「この建物は……」
「病院」
「病院?」
「病気や怪我の動物が運ばれる場所」
「クレイドは、やらないのですか?」
「私は、獣医じゃない。動物を専門に診る医者がいるから、その者に任せれば心配はないよ」
「そ、そうですか」
セネリオの話の通り、建物の中には多くの種類の動物を見ることができる。
またそれらの動物を連れている飼い主は特に慌てふためくことなく落ち着いており、この建物が「危険な場所」でないことを証明している。
「信用できた?」
「はい」
「なら、この場所で待っていて。登録前の手続きとか、私がやって来る。その方が、早いからね」
そう言い残すと、セネリオは何処かへ行ってしまう。
残されたアリエルに長椅子に腰を下ろすと、行き交う人々に視線を向ける。
まずアリエルが驚いたのは、老若男女関係なく生き物を飼っているということ。
彼女が暮らしていた世界では裕福な人間しか、生き物を飼うことができなかった。
しかしイシュバールでは多くの者が生き物を飼い、何よりこの世界には専用の医者まで存在する。
(もし、私が……)
雷に打たれイシュバールに来ることがなかったら、このように猫を飼うことはなかったとアリエルは思う。
これはある意味で貴重な経験だが、だからといって手放しで喜べるものではない。
ふと、あることが脳裏を過ぎる。
もし、元の世界へ戻る方法が見付かったら、ミーヤを一緒に連れて行くことができるのか――
いや、それだけではない。
最初は「早く帰りたい」と願っていたが、イシュバールで暮らすようになってから「このまま――」という気持ちも湧き出してきた。
疑いこそあったが今は温かく受け入れてくれ、侍女として充実した毎日を送っている。
そして、セネリオの存在も大きい。


