『勝手に見るな』
ただ一言、そのように書かれていた。
そして文字の最後に付けられていたのは、巨大な怒りのマーク。
どうやらラルフが盗み見ることを、はじめからわかっていた。
だとすると紙を丸めて捨てたというのは嫌がらせということになるが、エイルは時として嫌がらせ以上のことをする。
あまりの酷い仕打ちに、ラルフは椅子から滑り落ちる。
そして床に座ると悲劇のヒロインのように顔を背け、エイルにどうしてこのようなことをするのか尋ねるが、エイルからの回答はない。
寧ろ「答えてほしいのか?」と、視線で投げかけてくる。
それに対し、ラルフは深く考え込む。
自分の性格は自分がよく知っているので、どのような答えが返されるかもわからないわけでもない。
聞きたいようで聞きたくないエイルからの回答に、真剣に悩んでしまう。
その時、エイルが椅子から立ち上がった。
そして一言「野暮用」と告げると、教室から出て行ってしまう。
一人取り残されたラルフは、書き途中の反省文を覗き込んだ。
其処に書かれていた文章は、エイルの性格を表しているものであり。
「授業でどのようなことをしてしまった。
それに対して、どのように思い反省しているか」ということが、丁寧にこと細かく書かれていた。
それはラルフが書いている文章とは、天と地の差があった。
この綺麗に書かれた反省文を見た時、ラルフは悪いことを思いついてしまう。
そう、エイルが書いている反省文を自分が書いたことにする計画だ。
しかし其処に問題点があることをラルフは、気付いていない。
それは「ラルフ自身、魔法を使用できない」ということだった。
この文章にはハッキリと「魔法使用」と、書いてある。
つまりすり替え作戦を行っても、教師達には簡単にわかってしまう。
左右を見回し、エイルが来ないことを確かめていく。
それらしき気配がないとわかった途端、ラルフは勝手に続きを書き足し完成させてしまう。
そしてそのまま、提出してしまった。
無論、後で雷が落ちたことは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆
漆黒の闇は全てを包みこみ、無音を作り出す。
学園の敷地の隅に建てられている寮の一室、深い闇を切り裂くように一筋の光が窓から漏れ出ていた。
その部屋の住人はエイル。
彼は愛用の椅子に腰を下ろし、何やら考え事をしている。
だが考えが纏まらないのか、時折溜息を漏らす。


