ロスト・クロニクル~前編~


「……山百合に栄養剤はやめろ」

「何で?」

「何か、嫌な予感がする。今後、学園を揺るがすような何かが……だから、その……止めろ」

「冗談だろ? エイルは、占いをはじめたのかな。意外に、信心深いんだ」

「そうじゃないけど――」

 このような場合、何と言えばいいのか。

 考え込み言葉を探すも、これを表すに相応しい単語が思いつかない。

 だがラルフが栄養剤を使う時、必ず何かが起こる。

 それは、学園の一部が変化してしまうほど。

 最近の現象のひとつに上げられるのは、花壇に植えられた植物の育成不足。

 その後の調査で判明したことは、ラルフが「怪しい液体を流していた」ということだった。

 それこそラルフ特製の栄養剤。

 そのような物を学園の敷地に流しているのだから、本当に困ったものである。

 これに関しては流していた液体が失敗作であった為、成長不足で済んだ。

 しかし失敗作ではない栄養剤を与えた場合、どのような現象が起こってしまうか――想像しただけで恐ろしい。

 エイルは、身震いする。それが何を意味しているのかは、彼には全くわからなかった。

 ただ、予想だけはできる。

 その主役となるのが、マルガリータと名付けられた山百合であることを――

「なら、いいじゃないか」

「どうなっても知らないぞ。責任は自分で取れよ。後で泣きついてきても、僕は見捨てるからね」

「わかってるって」

 そう言いながらも、何かがある度にエイルに泣きついてくる。

 自分より年下の相手に泣きつくなど、正直言ってみっともない。

 それでも、ラルフはそれを平気で行う。

 少しプライドというものを持っても罰は当たらないとエイルは思ってしまうが、いまだにそれを持とうとしない。

「じゃあ、回復魔法の件もいいんだよな?」

「それとこれは別だよ」

「別じゃないね。責任は自分で取る。つまり、言ったことに対しての責任も取らないと。違うかな?」

「そうなるかな」

 多少強引な見解と取れなくもないが、言っていることは正しい。

 だが、ラルフはそれを決して認めようとはしない。

 強情な相手にエイルは舌打ちをすると、強行手段を選択することにした。

 エイルはコホンと咳払いをすると、人差し指をラルフに向けながら言葉を発する。