「拒否権は?」
「あると思う?」
「ないかな?」
「さっき、やってもいいって言ったじゃないか。だからやるよ。男が一回言ったことを曲げるのは、どうかと思う」
エイルの本性は、どす黒い。
そう察したラルフは身体を震わせると、エイルから視線を外す。
するとエイルは、紙の上にペンを走らせはじめた。
どうやら急いで書き上げ、寮に帰りたいらしい。
「ところで、ハリス爺ちゃんはどうした?」
文章の中に「ハーブ園」という言葉が登場した時、ある出来事を思い出す。
それは、ラルフが山百合を欲しいと騒いだ件。
あの後、ハリスに頼み山百合を貰ったのか。
そのことを尋ねるとラルフは満面の笑みを浮かべ、山百合が植えられた鉢植えを重たそうに机の上に置く。
ラルフと山百合――正直、これほど似合わない組み合わせはない。
だがそれを言ったら可哀想なので、エイルは暫く観察することにした。
もし失敗し枯らしてしまったら、その時は遠慮なく貶せる。
「貰ったんだ」
「実は、名前を決めてあるんだ」
「どうせ、山百合の“ユリ子さん”とかだろ?」
「違う! マルガリータちゃんだ」
エイルは特に、反応を見せなかった。
ただ一言「そうか」と返しただけで、再び反省文を書きはじめる。
その冷たすぎる反応にラルフは、エイルに言葉を求めてくるが、“マルガリータ”という名前にどのような感想を言えばいいのか、相変わらず困った発言を繰り返す。
「可愛いだろ?」
「可愛いよ。だから、最後まで育てるんだぞ」
いい加減な性格を考えると、思った以上に早くラルフを貶せる可能性が出てきた。
この山百合は、動くことはできない。
フランソワーのように外出して餌を探すという高等技術も行えないので、頼りはラルフしかいない。
「枯らしたら、ハリス爺ちゃんが怖いぞ」
「勿論! マルガリータちゃんは日当たりがいい場所に置いて、栄養剤を与えて元気よく成長してもらおう」
その台詞は、いつもなら簡単に聞き流していた。
しかし“栄養剤”という危険な単語に動いていたペンを止めると、エイルは余白に“栄養剤”という文字を何度も書き込んでしまう。
暫くその文字を見詰めていると、大きな溜息がつかれた。
そしてポツリと、一言を呟く。


