「ハゲは、治るよな?」
「自然の摂理で抜けたのなら無理だけど、抜かれたなら生えてくるよ。それに、十代で抜け毛って聞いたことない」
「そ、そうだよな。よし! 育毛剤を使って、毎日のように手入れするぞ。自慢の黒髪だからね」
エイルの言葉に元気を取り戻したラルフは立ち上がると、そのまま校舎に向かって走っていってしまう。
取り残されたエイルは、呆然とその後姿を見詰める。
そしてその移り変わりの激しい性格に、言葉を失う。
その時、右腕が痛み出す。
今までのやり取りで忘れていたが、右腕を怪我していた。
流れる血の量は変わっていないので、傷口の治癒は進んでいない。
エイルはポケットからハンカチを取り出すと、傷口を押さえる。
ハンカチは、見る見るうちに赤く染まっていった。
思った以上に傷は深く、それなりの手当てをしてもなわなければ、今後の生活に差し支えるだろう。
エイルにとって右腕は利き腕にあたり、此方が使用できなくなってしまうと何かと不便。
それに、逆の腕を鍛えるのには時間が掛かる。
「……痛いね」
その言葉にどのような意味が含まれているのか、それはエイル本人にしかわからない。
ただ何か思いつめている、そのような感情が込められているということは声音より判断できた。
無意識に傷口を押さえる手に、力が入ってしまう。
痛みに顔が歪み、遣る瀬無い気分に陥ってしまう。
「何をしているのだろう」その感情が、握り締めていた手を緩める。
その瞬間、温かい液体が流れ出した。
「保健室、行かないと」
遣る瀬無さに複雑な表情を浮かべると、長い溜息を付く。
その後、再び溜息を付くと校舎に向かい歩みを進める。
その後姿は、声を掛けてはいけない――そのような独特の雰囲気が漂っていた。
◇◆◇◆◇◆
なんだかんだで、一日の授業が終了した。
生徒達はメルダースの厳しい一日から開放されたことに浮かれるが、中にはそうでない生徒も存在する。
授業の終わりと同時に、補習が開始されるからだ。
そしてこの場所に、補習に等しいものを行っている生徒が存在した。
その人物はラルフであり、ハーブ園の出来事について、反省文を書かされていた。
「どのような理由で鳥に襲われてしまったのか、細かく記せ」というのが題名であったが、これは思った以上に難しい。


