ロスト・クロニクル~前編~


「我導く唄は颯々となりて、永遠に揺蕩う言の葉となるであろう」

 エイルが唱える呪文に聞き覚えのある生徒は、使用される魔法の大きさに戦く。

 いくら中級の魔法といえども使用する人物がエイルとなれば、それなりに威力が変わってくる。

 大半の生徒は遠くに逃げてしまうも「学びたい」という精神の持ち主は、何とかその場に踏みとどまる。

 エイルの周辺に、風が集まる。

 あとは、魔法名を唱えるだけ。

 名を告げる為に口を動かした瞬間、ラルフを取り囲んでいた烏達が一斉に逃げ出す。

 本能的に危険を察知したのだろう、突然の行動に魔法が未発動で終わってしまう。

 無論その反動は、全部エイルに跳ね返ってきた。

「――うっ!」

 思った以上の反動に、表情が歪む。

 圧縮された風の力は、エイルの右手を襲う。

 周囲に迷惑を掛けないようにと懸命に抑え付けるが、無傷では済まなかった。

 認識の甘さと未熟さ。

 そして、自分の愚かさを嘆く。

「もう少し、訓練しないと」

 何事もなく静まり返った周囲。魔法の暴走を恐れた生徒達は安堵の溜息を漏らすと、立ち尽くすエイルに注目する。

 発動された魔法を見てみたいという思いがあったが、未発動の魔法を暴走させずに抑え付けるという行為は、滅多に見られない。

 普通なら暴走させ、周囲を破壊してしまう。

 それを見事に押さえつけた。それだけでも凄いというのに、エイルはどこか不満足そうだった。

 それは、自分の右腕を怪我してしまったからだ。

 見れば、指先から血が滴り落ちている。

「エ、エイル」

 黒い生き物達から解放されたラルフが、近付いてくる。

 そして第一声に発せられた言葉は、心配という気持ちが含まれた友人の名だった。

 そんなラルフに対しエイルは肩を竦めると「やってしまった」という感情を全身で表す。

 やはり制御の失敗が、引っ掛かっているようだ。

「悪い」

「謝ることはないよ。僕が、未熟なだけだし」

「でもな……」

「そう思うなら、動物に嫌われる体質を何とかしろ。どうせ、無理だと思うけど。これ、代わりに渡しておいて」

「えっ! こ、これは――」

 そう言うと、ポーションが入った小瓶をラルフに投げ渡す。

 曲線を描いてラルフの手の中に納まった小瓶。

 その瞬間、ラルフは空中に視線を移し、鳥達が襲ってこないか確かめる。

 だが、一匹も襲ってこない。

 どうやらポーションが原因で、襲われた訳ではないようだ。