「我導く唄は颯々となりて、永遠に揺蕩う言の葉となるであろう」
エイルが唱える呪文に聞き覚えのある生徒は、使用される魔法の大きさに戦く。
いくら中級の魔法といえども使用する人物がエイルとなれば、それなりに威力が変わってくる。
大半の生徒は遠くに逃げてしまうも「学びたい」という精神の持ち主は、何とかその場に踏みとどまる。
エイルの周辺に、風が集まる。
あとは、魔法名を唱えるだけ。
名を告げる為に口を動かした瞬間、ラルフを取り囲んでいた烏達が一斉に逃げ出す。
本能的に危険を察知したのだろう、突然の行動に魔法が未発動で終わってしまう。
無論その反動は、全部エイルに跳ね返ってきた。
「――うっ!」
思った以上の反動に、表情が歪む。
圧縮された風の力は、エイルの右手を襲う。
周囲に迷惑を掛けないようにと懸命に抑え付けるが、無傷では済まなかった。
認識の甘さと未熟さ。
そして、自分の愚かさを嘆く。
「もう少し、訓練しないと」
何事もなく静まり返った周囲。魔法の暴走を恐れた生徒達は安堵の溜息を漏らすと、立ち尽くすエイルに注目する。
発動された魔法を見てみたいという思いがあったが、未発動の魔法を暴走させずに抑え付けるという行為は、滅多に見られない。
普通なら暴走させ、周囲を破壊してしまう。
それを見事に押さえつけた。それだけでも凄いというのに、エイルはどこか不満足そうだった。
それは、自分の右腕を怪我してしまったからだ。
見れば、指先から血が滴り落ちている。
「エ、エイル」
黒い生き物達から解放されたラルフが、近付いてくる。
そして第一声に発せられた言葉は、心配という気持ちが含まれた友人の名だった。
そんなラルフに対しエイルは肩を竦めると「やってしまった」という感情を全身で表す。
やはり制御の失敗が、引っ掛かっているようだ。
「悪い」
「謝ることはないよ。僕が、未熟なだけだし」
「でもな……」
「そう思うなら、動物に嫌われる体質を何とかしろ。どうせ、無理だと思うけど。これ、代わりに渡しておいて」
「えっ! こ、これは――」
そう言うと、ポーションが入った小瓶をラルフに投げ渡す。
曲線を描いてラルフの手の中に納まった小瓶。
その瞬間、ラルフは空中に視線を移し、鳥達が襲ってこないか確かめる。
だが、一匹も襲ってこない。
どうやらポーションが原因で、襲われた訳ではないようだ。


