「魔法を使う。ラルフ、死ぬなよ」
「本気は、嫌だ!」
「手加減はする。さっき、もう一度見たいと言っただろ。だから、リクエストに応えて使う」
「言ったけど……こうなるとは、思わないよ。い、いたたたたた! エイル、早く助けてくれ」
今度は髪の毛を引っ張っているらしく、束になった髪が地面に落ちていく。
それを見た瞬間、エイルの時間が止まった。
ここまで生き物に嫌われる人間が存在するのかと、ラルフの不運を嘆くしかない。
それに急いで救出しなければ、いくら頑丈にできているラルフでさえ危ない。
このような場所で死体など真っ平御免だが、どのような魔法を使用するべきか、迷いが生じてしまう。
炎を主とした魔法を使用したら、ハーブが消し炭となってしまう。
だからといって、周囲を凍らす魔法ではハーブの生育を悪くしてしまう。
それなら無難に、鳥達を一気に追い払た方が確実。
風――それは、エイルが潜在的に持つ属性。
これなら制御に失敗して、多大なる被害を及ぼすことはない。
使用する属性が決まれば、あとは威力。
初級の魔法でもいいが“もしも”という場合もある。一発で勝負を決めなければ烏達はエイルに襲い掛かって来るので、詠唱ができなくなってしまう。
それならば、中級の魔法がいいだろう。
上級でも構わなかったが、周囲に生徒がいるのでそれはできない。
それに何より「ハーブを守る」ということが大前提で、ラルフのことは二の次。
エイルは大きく深呼吸を繰り返すと、詠唱を行う為に意識を集中させた。
その間もラルフの悲鳴が聞こえてくるが、中途半端な集中では制御に失敗してしまうので、完全に無視する。
生徒の間に、緊張が走る。
それは「このような場所で魔法を――」という意味合いではなく、エイルがどのような魔法を使用するのか、楽しみであった。
メルダースで五本の指に入るといわれる、魔力の高さ。
皆、強力な魔法が発動されるのではないかと期待してしまう。
自分より上に当たる術者の魔法を見ることは、魔法を学ぶ上では大切と言われている。
勿論勉学も必要となるが、実物を見る方が得るものが多い。
その為、嫌でも期待感が高まる。
ゆっくりとエイルは、右腕を水平に伸ばす。
細い女のような指先をラルフがいる方向に向けると、囁くように呪文を唱える。それはまるで、少女の歌声のような澄み切った声音であった。
一瞬にして、多くの者達が惹き込まれてしまう。
それだけこの声音は、力が存在した。


