「あの花がどうした?」
「貰えないか?」
「僕に聞いたって、仕方ないだろ? ハリス爺ちゃんに、聞かないと。本気で、植物を育てる気なのか?」
「エイルが、そうしろって言うから」
まさか、本気にしてしまうとは……ラルフの部屋に山百合が置かれているなんて、想像もしたくない。
という以前に、似合わない。
山百合といえば、清楚な女性がイメージされる。
そのような植物を、ラルフが栽培する。
エイルは込み上げてくる笑いを懸命に堪えていたが、可笑しくて仕方がない。
フランソワーによって投与された菌が、ラルフの感性を一般レベルに戻したのだろう。
相変わらず理解不能な肉体構造をしていると、エイルは苦笑する。
この場所で育てられている花々は、学園で飾る目的で栽培されている。
はじめはハリスの趣味であったが「季節ごとに花を飾ると、学園の中が明るくなる」という花好きの学園長の提案からはじまった。
今では季節ごとに美しい花々を楽しめ女子生徒の間では好評のようだが、花に興味のない生徒にしてみたらどうでもよいこと。
以前のラルフであったら、後者の意見に当て嵌まっていた。
「そのように言ったけど、山百合とは思わなかった。もう少し、小さい花がいいんじゃないかな。大きな花は、栽培が難しいと聞くし。お前は大雑把なところがあるから、大きな花は枯らす可能性がある。こういう場合は、小さい花から育てて栽培の知識を増やした方が……」
「大丈夫だよ。努力と根性があれば」
「栽培に、根性はいらないと思うけど」
「まあ、いいじゃないか。で、ハリス爺さんは? さっきから姿が見えないんだけど、何処にいるのかな」
「僕は、知らないよ」
「相変わらず、冷たいな」
ラルフはハーブ園を見回し、庭師のハリスを捜しはじめる。
どうやら授業中だということを完全に忘れてしまっているらしく、このことを担当の教師に報告するべきかどうか迷う。
報告したと同時に「授業放棄」と見なされ、与えられる単位は没収。
ラルフは、留年という言葉に近付く。
その時、エイルの瞳が怪しく光り輝いた。
このまま報告しラルフを留年に追い込めば、日々の生活が少しは静かになる。
それに学年が異なれば、合同授業も一緒に行わなくて済む。
これほど嬉しいことはない。
そして進級試験と卒業試験を一発で合格すれば、永遠におさらばできる。


