ロスト・クロニクル~前編~


「お前は、自身の実力がわからないのか」

「それは……わかっています」

 しかしシードから返された言葉は、エイルが実力をわかっていないというもの。無謀は馬鹿であり、勇敢とは違う。自身の実力を推し量れる者が一流であり、時に引くことも大事。

 それにルークと手合わせしても、相手に一撃を入れることはできないという。その証拠に、エイルの身体は小刻みに震えていた。一流の武人を相手にし、改めて知る自分の未熟で弱い一面。

 シードが寸前で止めていなければ、結末は見えていた。ルークは手合わせといっていたが、いざ剣を交えた場合本気で向かってくる可能性が高い。

 それにエイルの剣の師はフレイであり、ルークが目標とし尊敬している人物。そうなれば、相手が手加減をするわけがない。シードの的確な説明にエイルは無言で頷くと項垂れ、詫びの言葉を言う。そして、反省した。

 エイルの態度に、シードは言葉を続けていく。自分の能力を過信し相手に立ち向かうのは、親衛隊全体の統率に関わるという。だからこのようなことは二度と行なわないで欲しいと、注意を行なう。

「わかりました」

「お前がメルダース出身で、それ相応の努力をしてきたというのは知っている。しかし、過信はいけない」

「はい」

「無謀な行動は以後慎め。いいな、これは命令だ。このようなことで命を落としても、誰も喜ばない」

「はい」

「なら、仕事に戻れ」

 シードの厳しくも温かい言葉にエイルは頭を垂れると、仲間達が集まっている場所へ急ぐ。エイルの後姿にシードは珍しく微笑を浮かべると、踵を返しエイルとは違う方向へ歩いて行く。

 その途中、副隊長のリデルに出会う。リデルはシードの姿を確認すると軽く頭を垂れ、騒がしい声を聞いたので駆け付けたと話す。しかしその騒ぎは収束したのでリデルの駆け付けは無用となったが、概要だけは話していく。

「ルークに会った」

「悪いことでしょうか」

 その名前にリデルは目を丸くしてしまうが、瞬時にいつもの冷静さを取り戻す。そしてシードの話にリデルは溜息を付くと、シードに寸前で手合わせの約束を止めてくれたことを感謝する。彼女もまた、エイルがルーク相手に手合わせをするのは無謀と判断したからだ。