ロスト・クロニクル~前編~


 だからといって、気を緩めていいものではない。先程アルフレッドと一緒にいた時に出会った先輩に言われたように、新人には新人の仕事が待っている。そのひとつが、雑用であった。

 エイルは先輩達の言葉に従い、雑用を開始する。一般的に雑用の定番といえば掃除や片付けだが、彼が言い渡されたのは書類の整理。これはメルダースで経験しているので、エイルは慣れた手付きでこなしていく。

 その時、エイルの側に近付き声を掛ける人物がいた。先輩の隊員と勘違いしたエイルは敬語を用いるが、相手はエイルの敬語に笑い出す。そして、自分も新人隊員だということを伝えた。

「そうなのですか?」

「だから、敬語はいいって」

「あっ! は、はい」

「本当に真面目だね。私は、シン・ファレル。同じ新人隊員なのだから、仲良くやっていこう」

「此方こそ」

 シン・ファレルと名乗った女性は、一言で言えば男勝り。笑い方は豪快で、口調は男そのもの。また赤い髪はリデルより短く切られ、緑色の双眸には強い光を秘めている。彼女の特徴で一番驚いたのは、右の頬についている傷痕。エイルは失礼とわかっていたが、それに付いて尋ねた。

「ああ、これ。剣の練習をしている時に、やってしまったんだ。あの時は、未熟だったから仕方がない」

 彼女は笑いながら自分が負った傷のことを話しているが、表情は何処か切ない。女にとって顔が傷付くことは、予想以上に辛いことと聞く。現に、女を顔で判断する男がいるくらいだから。

 このような状態に慣れていないエイルは、反応に困ってしまう。するとエイルの心情を理解してくれたのか、シンはエイルの肩を叩きしんみりとしているエイルに「気にするな」と、声を掛けた。

「優しいね」

「そう……かな」

「そういう表情をしてくれるんだから。で、その話は止めよう。貴方って、いくつ? それに、剣は使える?」

「年齢は16で、剣はボチボチです」

 エイルの答えシンは、自分の情報を話していく。それにより年齢はシンの方が上で、三歳離れているということを知ることができ、更に剣の腕前は相当高いということがわかった。そして彼女はアルフレッドと違い自己流で学んだわけではなく、きちんと先生のもとで型か学んだという。