ロスト・クロニクル~前編~


 そもそも、親衛隊の試験を受ける動機が明らかに違っていた。アルフレッドは明確な理由を持って親衛隊の一員となったのだが、エイルは病弱な兄の代わりに親衛隊の一員となる。

 兄イルーズが病弱でなければ、彼が親衛隊として入隊していた。そしてエイルは、自身の好きな道へ進んでいただろう。正直、最初の段階では親衛隊に入隊することを迷っていた。

 シードはエイルに「期待している」と言っていたが、その言葉を本当に掛けるべき人物はアルフレッドの方ではないか――と、心の中で思う。エイルは彼の告白を聞いていると、自身の惨めな一面が強くなっていく感じがする。

 ふと、エイルが足を止めた。それと同時にアルフレッドに視線を向けると、彼の行動こそ真の意味で親衛隊の一員になるに相応しいと褒めた。

「な、何だ」

「本当に、偉いと思ったんだ」

 先程と違い急に貶していた相手を褒め出したことに、アルフレッドは動揺を隠し切れない。エイルはアルフレッド相手に容赦ない言葉を放っていたというのに、その人物が褒め言葉を言ってくる。

 次の瞬間、アルフレッドはか細い悲鳴を上げ首筋を掻き毟る。更に全身が痒くなってきたのか、制服の上からボリボリと掻き出す。それでも痒みが治まらないのか、両腕を巻く上げその箇所を掻き出した。

「変なことを言った?」

「言ったぞ」

「褒めたこと?」

「そうだ」

「本当のことを言っただけだよ。僕はアルフレッドと違い、立派じゃないから。本当は、兄さんが……」

 途切れ途切れに語るのは、自分が親衛隊の一員になった訳。語られる真実に、アルフレッドは目を丸くし「本当か?」と、エイルの言葉を遮る形で尋ねた。それだけ、彼にとっては信じられない内容だった。

「本当だよ」

「じゃあ、メルダースは……」

「あれは、別だよ」

「ふーん、そうか」

 勘のいいアルフレッドは、メルダース入学の裏側に何か特別なものが隠されているということを悟るが、そのことを聞くことはしない。いつものアルフレッドであったら理由を尋ねていたが、エイルが発している独特の雰囲気を感じ取ったのだろう、尋ねることはしなかった。