足音の主は、大神官のオルデラン。普段は大神殿の奥で仕事を行なっているので、このように表に出てくるのは珍しい。オルデランの方もエイルの存在に気付いたのか足音を止め、視線を交錯させる。
「お久し振りです」
先に口を開いたのはエイル。彼の言葉にオルデランは微笑を浮かべると、再び一定の歩調でエイルの側へ近寄った。
「いつ、お帰りに」
「今日です」
「そうでしたか」
エイルの無事の帰郷に、オルデランの表情が徐々に緩んでいく。フレイとオルデランは古くから交友を持っているので、イルーズやエイルを孫のように思っている。その為、隣国に行ったエイルを心配していたという。
いや、本音の部分は別に存在していた。オルデランもまた、クローディアの行く末を考えている。そしてエイルがメルダースに入学した本当の意味を知っているので、クリスティとの確約も心配していた。しかしエイルの堂々とした立ち振る舞いに、その心配も無用だったと悟る。
そして見事あのクリスティの難題を合格し確約を得たと、エイルの素晴らしい努力を湛えた。
「いえ、僕は……」
エイルにしてみれば、自分は当たり前のことをしたまでという。また、微力ながらもクローディアの行く末を考えている。一見、平和に見える母国。しかし内情は蜘蛛の糸のように複雑に絡み合い、父親曰く「先王を裏切った者が、平然とした顔でのさばっている」という。
ほんの少し優位に立てるということで、今まで世話になってきた先王を簡単裏切り、甘い蜜を吸い続けている者達。その者達はブクブクと肥えていき、今も好き勝手に振舞っている。
このままでは、クローディアの全てを吸い尽くされ枯渇してしまう。我が目で、崩壊の姿を見たくない。だからこそ、クリスティが条件として提示した無理難題をこなしてきたのだ。
「オルデラン様」
「何だね」
「女神様は、何と……」
気丈に振舞っても、内心は不安で仕方がない。それに女神は、沈黙を続けている。それは「今、動く時ではない」ということを表しているのだが、エイルはフレイのように強い人間ではない。時折弱音を吐き、オルデランに言葉を求めてしまう。また、身体が小刻みに震えていた。


