その後、仲のいい友人達に別れの挨拶を言う。また、世話になった教師達に感謝の気持ちを言葉で表現する。

 そして――

 校門を潜り、メルダースを後にした。

 これにより、本当の意味で学生生活が終了した。国に帰れば親衛隊の一員として、王家の守護を行なわないといけない。緊張はしている。いや、緊張しない方がおかしいといってもいい。自分の胸に手を当て、エイルは溜息を付く。心臓が、激しく鼓動していた。それと同時に、呼吸が荒くなってくる。

(僕は……)

 足を止め、無意識に天を仰ぐ。その時、聞き覚えのある騒々しい声音がエイルの耳に届き、反射的に声音が響いた方向に視線を向ける。次の瞬間、嫌な物を見たとエイルは顔を顰めた。

「アルフレッド!」

 何と其処にいたのは、親衛隊仲間のアルフレッドだった。一年ぶりの対面にアルフレッドは嬉しさがこみ上げてきたのか、バシバシとエイルの背中を叩く。その図太い腕での攻撃によって背中から伝わる衝撃は想像以上で、息が詰まる思いがするが、これはこれで懐かしい。

「元気か?」

「まあ……ね」

「迎えに来た」

「お前が?」

「エイルの親父さんの命令だ。いやー、何で俺が名指しされたのか不明なんだが……まあ、いいか」

「……何となく理由はわかるよ」

 エイルの父親フレイが、意味もなくアルフレッドを名指しするわけがない。彼が名指しされた理由というのは、アルフレッドの体格が関係しているのだろう。彼が親衛隊の一員になれたのは、王家の肉の壁になる為というもの。それだけ、彼の肉体は鋼のように硬いのだ。

 メルダースが存在するエルベ王国から、クローディア王国までは遠い。途中で何かトラブルが発生してはいけないということで、アルフレッドを指名したのだろう。しかし息子の身を心配してくれるのなら、親衛隊の試験を受けに帰った時にも誰かが迎えに来て欲しかった。

 だが、あの時は正確な日程がわからなかったので、迎えを出すのが難しかったに違いない。今回は事前に卒業の日と出発日を連絡してあったので、このようにアルフレッドが来た。冷静に考えれば簡単なことなのだが、エイルは自身の感情的な考え方に苦笑するとアルフレッドに礼を言った。