別に、ラルフを根っから嫌っている相手ではない。本当に嫌っているのなら、ラルフをこの世界から抹殺している。なんだかんだで、あの性格の人物と一緒にいることが楽しいのだ。
だが「ワンセット」というのは迷惑なので、エイルは会話を行なっている教師に、その点を丁寧に説明していく。そして常に一緒というのは誤解であり、就職先も違うと付け加えた。
「それはわかっているわ」
「それはどういう意味ですか?」
「貴方の学力と彼の学力の差よ」
「……なるほど」
いくら留年一回で済んでいるとはいえ、エイルとラルフの学力の差は大きい。ラルフは生来の天才だが、それは捻じ曲がった方向での天才で、メルダースでの成績に直結することはない。
教師の説明に、エイルは納得するかのように頷き返す。すると、エイルの肩を叩かれた。それは「頑張りなさい」という無言の声援で、それに対しエイルは一言「有難うございます」と、言葉を返していた。
「本当に慣れないわ」
「何が……でしょうか?」
「生徒を送り出すこと。どの生徒も頑張って欲しいわ。特に、教師を困らせた生徒は尚更ね」
その困らせた生徒が一体誰なのか――
エイルは瞬時に、ラルフの顔が脳裏を過ぎった。しかし、教師は言う「悪い生徒ほど可愛い」と。確かに、ラルフは見方を変えれば可愛らしい生徒である。ただ、一部分は厄介なのは間違いない。
話を終えたエイルと教師は、短い挨拶を交わしそれを別れの挨拶とする。エイルは再び校舎の中を見回り、教師はラルフの様子を見に行くという。そして、卒業後の人生を真っ当に生きて欲しいと願った。
全ての思い出の場所を回った頃、外は茜色に染まっていた。一体、どれくらいの教室を回ったのか。寮の私室に戻った瞬間、疲れが一気に襲ってくる。エイルは椅子に腰掛けると、窓から外を覗き見た。
この光景を見るのも、今日で最後。エイルは視線を机の上に向けると、人差し指で机の上を撫ぜる。毎日、この机で勉強を行なった。予習に復習。それに、テストに向けての勉強。次に、どのような生徒がこの机の上で勉強をするのか。思い出に浸りつつ、次に入学する生徒のことを思う。


