ロスト・クロニクル~前編~


 喧嘩に発展した場合、流石にクリスティの雷が落下してしまう。そして、エイルが発したのはその「クリスティ」の名前。その瞬間生徒達は口を塞ぎ、全員が頭を下げ「すみませんでした」と、謝る。

 寸前でクリスティの名前を出したことにより、最悪の状況に発展しなかった。やはり、最後の最後で悪い印象をクリスティに与えるのは、今後の生活に大きく関わってしまうからだ。

 全ての参考書を後輩達に配り終えたエイルは後輩達に挨拶代わりに手を振ると、寮の部屋へ戻って行く。そして寝台に腰掛けると同時に長い溜息を付くと、しんみりとした心情に浸る。

 この部屋も、明日には出ていかないといけない。思い出に浸りたいので最後の一日は一人で過ごしたいと考えていたが、彼の思いを邪魔する人物――エイルの悪友ラルフが現れた。

「遊ぼう」

「何で?」

「いいじゃないか」

「その前に、ノックする」

「ああ、そうだった」

 軽い口調のラルフにエイルは拳を作るが、今日はラルフを殴り倒そうという気分にはなれない。いつのもパターンであったらすぐに殴り倒されているのだが、エイルが攻撃を仕掛けてこないことにラルフはエイルに「具合が悪い?」と、尋ねていた。それだけ、気味悪い。

「殴って欲しい?」

「欲しくない」

「だろう」

「うん」

「まあ、最後だからね。お前を殴るという気分に、なれないんだよ。で、今日は何の用なんだ」

「挨拶」

 彼の言葉に、エイルは眉を顰める。あの無礼千万なラルフが、最後の挨拶にやって来た。頭に強い衝撃を受けておかしくなってしまったのかと危惧したエイルは、階段から落下したのかと尋ねた。

「していないよ」

 そもそも階段から落下したというのなら、このようにエイルの前で普通に会話はしていない。それにラルフが階段から落下したのなら、学園中の生徒が噂している。また、教師達も呆れている。ラルフの必死の訴えとそれらの考えを総合すると、エイルは納得したように頷き返す。