ロスト・クロニクル~前編~


 魔法を使用するのは日常の一部と化していたのか、これは半分いい思い出として記憶の中に残しておく。ふと、エイルの表情が変化する。学園生活の思い出以上に、これからの生活に不安感を抱いたのだ。

 王室親衛隊の試験に合格しているので、クローディアに帰郷したと同時に親衛隊の一員として王家を守護する任務に就く。メルダースの卒業を一回で――というのが条件だったので、内心はホッとしていた。

 もし、卒業試験に失敗していたら――フレイの顔が脳裏に過ぎった瞬間、身体がブルっと震えた。

 エイルにとって父親フレイは、恐怖の対象で頭が上がらない存在。越えられない壁というべきか、全ての意味で全く敵わない。そのような人物から「必ず卒業」と言われているので、失敗がどのような結末を招くかは火を見るよりも明らか。下手すれば、勘当ものである。

(助かった)

 それが、エイルの本音だ。

 長い溜息を付くと視線を窓の方向に向け、他の生徒が使用している部屋の窓から漏れる明かりを眺める。エイルの他にも片付けを行なっている生徒がいるのだろう、複数の窓に人影が映っていた。

 一体、何人の生徒が出て行き何人の生徒が新しく使用するのか。そのようなことを考えていると、いつの間にか口許が緩んでいく。そして、新入生に頑張って欲しいと願ってしまう。

(さて、寝ようかな)

 椅子から腰を上げると同時に、ランプの明かりを消す。と同時に寝台に横になると、枕に顔を半分埋めた。

 疲れが蓄積していたのだろう、すぐに眠気が襲ってくる。エイルはうとうとした中で部屋の中に視線を走らせると、深い眠りに付く。そして、雀が朝を知らせるまで熟睡したのだった。


◇◆◇◆◇◆


 翌日、クリスティに許可を得たエイルは食堂で後輩達に参考書を配っていた。流石、エイルが使用していた参考書。食堂は参考書を欲する生徒達が、行列を作りわいわいと騒いでいる。

 しかし、配ることができる参考書にも数がある。それに一人の生徒が大量に参考書を持っていくので、少人数の生徒にしか手に入れることができない。その為、手に入れることができない生徒が文句を言い出し一触即発状態になってしまうが、エイルの説得で何とか静まる。