「約束は、守るわ」
「有難うございます」
「でも、今じゃないわ」
彼女の言葉に、エイルはクリスティの顔を凝視してしまう。いつにない真剣な表情にクリスティはクスっと笑うと「何故、今じゃない」と言ったのか、その理由を淡々と語っていく。
物事には、いい時期と悪い時期が存在する。クリスティ曰く、今はいい時期ではないという。その言葉に無言で頷くと、クリスティが考えている「いい時期」というのはいつなのか尋ねた。
「そうね……戴冠式かしら」
「女王陛下ですか?」
「王家に、男子はいないでしょ?」
「……はい」
一瞬言葉を詰まらせ、エイルは返事を返す。そして、淡々とした口調で国の内情を語っていった。
現在、王家の生き残りは女王シェラ一人。以前は正式な王位継承者が存在したが、隣国のエルバード公国の影響で命を落とした。いや、正しい言い方をすれば隣国に殺されたのだ。
正式な王位継承者は、クローディアの国民からの信頼が高かった。更に、文官や武官達からも「将来、いい国王になる」と、太鼓判を押されていた。つまり将来エルバード公国にとって最大の障害になる存在であり、早いうちに始末しなければいけないと考えていたのだ。
だから、殺害した。
理由は簡単。
そして、実に哀しい。
エイルの説明にクリスティは馬鹿馬鹿しいと思ったのか、溜息を付く。要は、やり方が気に入らないのだ。
「馬鹿の青二才の影響ね」
「そう、思いますか」
「当たり前でしょ? 馬鹿の青二才の父親は過去に一度会ったことがあるけど、まあ多少はできると思っていたけど駄目ね。その証拠に、息子があれだから。あの国も終わりかしら」
不適な笑みを浮かべ続けるクリスティの姿に、エイルは血の気が引く思いがした。このような笑い方をする時は、絶対に何か悪いことを考えている。長年の経験でそれを知っているので、エイルの身体はガクガクと震えだした。気が弱い人間なら、完全に意識を失っている。


