ロスト・クロニクル~前編~


 彼の言葉にラルフは悔しそうな表情を作るが、これ以上何かを言ったら身に危険が及ぶと長年の経験で知っているので、ラルフはヒラヒラと手を振ってエイルを見送るしかできなかった。


◇◆◇◆◇◆


 クリスティの私室の前に行くと、扉を軽く叩く。と同時に、部屋の中からクリスティの声音が響いた。彼女の言葉にエイルは「失礼します」という言葉と共に扉を開き入室すると同時に、真剣な面持ちのクリスティが視界に映り込む。その瞬間、エイルの顔が強張った。

「扉を閉めなさい」

「はい」

「で、其処に座りなさい」

「はい」

 クリスティの言葉に従うように、エイルはソファーに浅く腰掛ける。それを見たクリスティもテーブルを挟んで置かれているソファーに腰掛けると、無事に卒業できたことを褒め称えた。

「い、いえ……」

「本当のことじゃない。入学時に、私と交わした約束を覚えているでしょ? 貴方は見事に達成した」

「苦労しました」

「別に、謙遜しなくていいわ」

 エイルがクリスティと交わした約束――それは進級試験に一度も落ちることなく五年生を迎え、尚且つ一回で卒業試験に合格する。また常に上位の成績を保つという、常識外れとも取れる約束を交わしていたのだ。

 しかしエイルは見事に、クリスティとの約束を果した。何故なら、それには深い理由が存在していたから。

 クリスティの協力を得よ。

 それは入学前に、エイルの父親フレイに言われた言葉。フレイは母国クローディアの行く末を案じ、一国の王であれ跪くというクリスティの力を借りようと考えたが、相手は最大級の曲者であり最強の魔女。そう簡単に力を貸すわけがなく、条件として例の無理難題を突き付けた。

 当初、この無理難題をクリアするとは思わなかったという。だが予想に反してエイルは努力を続け、結果見事に難題をクリアしたのだった。そして彼女の難題をクリアしたのはエイルがはじめてということもあり、クリスティにとってエイルはお気に入りの人物となった。