ロスト・クロニクル~前編~


 クリスティの言葉に、卒業者全員の顔が青く染まっていく。一部の生徒は意識を半分飛ばし、また一部の生徒の口から半分魂が抜ける。誰も自分自身に逆らう者はいないと自負しているが、万が一というのが考えられるので釘をさした。そして静寂の中に、クリスティの笑い声が響く。

 表現し難い不気味な雰囲気に、卒業者以上に教師達の顔が引き攣っていた。笑うことにひとしきり満足したのか、クリスティが急に真面目な表情を作る。彼女は不真面目でぶっ飛んだ一面を持っているが、卒業式という晴れの席で最後まで不真面目な部分を前面に出すことはしない。

「今から名前を呼ぶから、呼ばれた人は前に出なさい。一人ずつ、卒業証明書を手渡すから」

 その言葉に、ゲンナリとしていた教頭のジグレッドが反応を示す。彼は慌てて卒業者の名前が書かれたノートを取り出すと、一人ずつ卒業者の名前を読み上げていく。そして名前を呼ばれた卒業者はクリスティの前に歩み出ると、彼女から自分の名前が書かれた卒業証明書を受け取っていった。

 その時、読み上げられている名前が止まった。どうやら困った人物の名前に到着したのだろう、ジグレッドの溜息が響く。しかしいくら困った人物とはいえ、立場上名前を呼ばないわけにもいかない。

 それにこの人物は、単位も修得し尚且つ卒業試験も合格している。正直「卒業資格に値していない」というのが多くの反応だが、今回の卒業は正確に言えば厄介払い。そう、その人物こそラルフだ。

 ジグレッドに名前を呼ばれたラルフは、利き手を突き上げ元気いっぱいに返事を返すと、いそいそとクリスティの前へ出る。そして早く卒業証明書が欲しいのか、両手を差し出した。

「何、この手は?」

「頂きたくて……」

「気が早いわ」

「す、すみません」

「まあ、いいわ。貴方も卒業試験に、見事に合格したのだから。その点は、認めてあげるわ」

 クリスティの言葉に両手を上げ喜ぼうとするが、彼女の睨みによってオズオズと両手を下げる。それを見たクリスティは満足そうに頷くと、彼女は卒業証明書をラルフの前に突き出す。

 しかし先程の出来事を引き摺っているのか、ラルフはなかなか手を出そうとはしない。すると「早く受け取りなさい」というクリスティの低音の声音が響く。それを聞いたラルフは慌てて両手で卒業証明書を受け取ると、深々と頭を下げ逃げるようにもとの位置に戻って行く。