彼の行動で今まで築き上げてきたメルダースのイメージを、一気に崩壊させてしまうからだ。それを恐れているのが、ジグレッドを含め他の教師達。それだけ、ラルフの実験と研究は多大なる被害を齎す。

 エイルの説明に、ラルフの身体が小刻みに痙攣し出す。語られる説明に怒りを覚えたのか、歪んだ顔をエイルに向けた。その予想外の迫力にエイルは戦き、反射的に防御の体勢を取る。

 しかし、ラルフは攻撃を仕掛けてくることはなかった。どうやらそれを自覚してきたのか、その場にしゃがみ込み人差し指で「のの字」を書き出す。そして、真面目に生きることを宣言した。

「本当か?」

「本当だよ」

「信じるよ」

 信じられないエイルの言葉に、ラルフは反射的に顔を上げる。いつもは平然と毒を吐くエイルが信用してくれたことが相当嬉しいのか、キラキラと瞳を輝かし、子供のようにはしゃぐ。

「だから、約束を守る」

「勿論」

「破ったら、後が恐ろしいよ」

「魔法が飛んでくるのか?」

 周囲に迷惑を掛けることを行うと、必ずといっていいほどエイルの粛正が待っている。その大半が「魔法」での攻撃なので、ラルフは「魔法」という単語が瞬時に頭に過ぎってしまう。

 しかし、エイルは「違う」という。ラルフに粛正を行なうのはエイルではなく、学園長という。

「な、何で」

「教頭先生もそうだけど、どちらかといえば学園長の方が学園のイメージを気にしているから」

「うっ! それを聞いたら……」

「卒業式の前に、マルガリータの処分だね」

「や、やっぱり?」

「当たり前だ」

 エイルが厳しい言葉を言い続けるのも、全ては世界平和の為。マルガリータが世界に蔓延ったりしたら、他の植物の栄養分を吸い自分以外の植物を枯らしてしまうだろう。それに巨大に成長してしまったら食虫植物の特性を大いに発揮し、人間を頭から丸呑みするかもしれない。流石にここまでくると話が飛躍しすぎるが、ラルフが育てたマルガリータなので油断できない。