悪夢だ。

 真実を知った時、エイルは頭を抱えて絶叫した。まさに、この事実は彼にとって悪夢そのもの。何かの手違いで、ラルフが卒業試験に合格してしまったのだ。勿論、エイルも合格している。

 これに関しては、別に問題はない。エイル自身、卒業試験の合格を狙って頑張っていたのだから。しかし、ラルフの場合はどうか。大半の生徒――いや、全員が「ラルフ不合格」と思っていた。

 それが、見事に合格してしまった。何かの間違いではないかとラルフの担任の教師に尋ねるが、教師曰く「テストの点数は、合格点に達している」という。流石、一回しか留年していない人物。そして、山百合をどどめ色に変化させる違う意味で天才能力を持っている奴。

 生来の天才を呼べるラルフなのだから、卒業試験に合格してもおかしくはない。だが一緒の時期に合格して欲しくなかったと、心の中で懸命にラルフに呪いを掛けるエイルがいた。

 それを知らないラルフは卒業試験に合格したことが嬉しいのか、ニコニコと笑いながらエイルのもとへ訪ねて来る。そして「合格」と書かれた紙を突き出すと「褒めて欲しい」と、言ってきた。

「はい。おめでとう」

「何だか、投げ遣りだね」

「そのように褒めて欲しいとせがまなければ、普通に祝いの言葉を言ってやったんだけどね」

「だって、他の人は誰も言ってくれないから。寂しかったんだよ。だから、エイルに頼んで……」

「結局、友達はできなかったんだ」

「いるよ! エイル君が、友達だよ」

「……そう」

 普通の生徒の場合、卒業までの間に何人もの友達を作っているものだが、ラルフは「普通」と呼ばれている生徒から逸脱していたので、最後の最後まで友人と呼べる人物はエイルしかいない。

 彼は寮の自室で奇怪な生き物を飼育し、尚且つぶっ飛んだ植物を育てていた。それが悪い印象を与え、誰も寄り付かなかった。

 しかし、全てが悪い方向に働いたわけではない。ラルフが一番得た物は「エイルに出会った」ことだろう。何だかんだ文句を言っているが、エイルはラルフを構っている。本当に嫌っていたら口も聞かないものだが、このように相手しているのだから本心で嫌っているわけではない。