「ほら、やっぱりそうなのよ」
「何が?」
「あの問題児君には、専属のパートナーがいるって話です。てっきり、嘘だと思っていました」
「ほら、決まっているんだよ」
「誰が、そのようなことを――」
問題児――その言葉で示されるのは、ラルフしかいない。
どうやらラルフの相手はエイルしかいないと、最初から決まっているらしい。
しかし誰もあのような性格の持ち主と一緒に授業を行いたくないのが、エイルの本音。
つい最近まで「愛するフランソワー」と、大声で叫んでいたのだから。
「皆が、言っています」
「僕は、ラルフの専属になった覚えはないけど……」
「いや、十分専属だよ。エイル以外に誰と組めと言うのか。正直、誰も名乗り出ないと思うね」
「あまり、そのように言わないでほしいな。おかしなイメージは、本当に困るし。というより、ラルフのお陰でイメージはついてしまったよ。あいつと出会っていなければ、今頃は――」
ラルフと付き合うようになってから、エイルは徐々にその性格を大きく変えていった。
入学当時は大人しくそれほど目立つ生徒ではなかったが、ラルフの不可思議で奇怪な性格を抑えつけるという役目が与えられてから、一変というより豹変してしまい今の彼の姿と化す。
平気な顔で、ラルフを張り倒す。
入学当時のエイルでは考えられないほど行動力に溢れ、一番驚いているのは本人だろう。
だがそのお陰で、大勢の生徒が平和な学園生活を送れているのも確か。
今では尊敬と敬愛の眼差しを向けられるようになり、ラルフの唯一の天敵にまで成長する。
「エイルがいなければ、今頃この学園はどうなっていたか。考えるだけでも、恐ろしいことだ」
「大げさだよ」
「いや、本当だと思う。あいつの研究は、日々おかしな方向に進んでいっている。なんだっけ、あのオオトカゲ? あれだって、普通じゃ考えられない。今はいないから、安心だけど」
「確かに、静かになって平和だよ」
クラスメイトの意見は、まさに正論であった。
学園――それも寮の一室でオオトカゲという凶暴な生き物を飼育する生徒が出現するなど、メルダース創立当初は誰も予想できなかった。
いや、普通の感覚の持ち主は飼育などしない。つまり、ラルフが行っていたことが非常識といっていい。