「ない」
彼の回答は、即答そのもの。エイルの素直な言葉に、質問を行なった生徒達は反応に困ってしまう。彼等はそのような回答を期待しているわけではなく、本当は「ある」と言って欲しかったのだが、エイルに言わせれば「ある」と言う者がいるなら紹介してほしかった。
「全員、同じだよ」
「エイルが言うと、安心する」
「どういう意味だよ」
「昨年の決闘シーンの例があるから。エイルって、本番に強いイメージを持っているんだよ」
「本番に強いのは、ラルフだよ」
それを聞いたクラスメイト達は「なるほど」と、納得する。確かに同学年で突出しているのは、ラルフしかいない。勿論、いい意味より悪い意味の方が強いのだが、彼の場合半端ない強運の持ち主なのだ。
それに難関のメルダースの入学試験を合格し、学園の一員となる。また、進級試験の失敗は一回。それを考えると、強運だけでメルダースの生活を送っているわけでもないだろう。
心臓に剛毛が生えていて、強運の持ち主。
刹那、エイルは溜息を付いた。
「どうした?」
「いや、何でも」
そう言い、エイルはクラスメイト達の心配を横に流す。これは、どちらかといえば自分とラルフの問題に関わる。
それは、ラルフの試験合格だ。
個人的にラルフが卒業試験に合格してほしくないのだが、彼の強運と心臓の剛毛を考えると危うい。それに何かの間違いでラルフが合格しエイルが不合格だったら、洒落にもならない。有り得ないというか絶対にあってはいけない未来を想像し、エイルの顔が引き攣っていく。
「本当に、大丈夫なのか?」
「平気だよ。ほら、そろそろはじまる」
「うっ! 来た」
「ああ、心の準備が……」
エイルが指で指し示した方向には、実技試験を担当する教師の姿があった。その教師の姿を見た瞬間、試験を受ける生徒達が一斉に緊張した面持ちを浮かべる。中には緊張のあまり、顔が真っ青な生徒もいた。これが、最後の卒業試験。まさに、山場といっても過言ではない。


