ロスト・クロニクル~前編~


「じゃあ、頑張れ」

「ドキドキする」

「僕も」

「エイルが緊張していると聞いたら、もっと緊張してきた。ああ、何だか倒れそうな感じだよ」

「ほら、シッカリしろ」

 エイルは身体を左右に揺らしているラルフの背中を支えると、ラルフ達が卒業試験を行なう教室へ連れて行く。

 本当なら何処か知らない場所へ連れて行きラルフを放置してしまった方が、世の中の為になるのだが、エイル自身も卒業試験を受けないといけないので遠出するわけにはいかない。

 といってあのままにしておくと周囲に迷惑が掛かってしまうので、彼を教室まで連れて行く。

 いや、エイルが同情心で彼を連れて行ったわけではない。最初からいつもの調子で毒を吐いていると、ラルフは「エイルが苛めたからテストが受けられなかった」と、詰め寄ってくる。そのお決まりの行動パターンを封じる為に、エイルはラルフを救い出し彼の教室まで連れて行った。

 勿論、ラルフはエイルの行動の意図に気付いていない。また強い確信があるわけではないが、ラルフが卒業試験に落ちるという天の啓示があったのだ。内心、本当に彼に卒業試験に落ちて欲しいものだ。そうすれば、綺麗サッパリにラルフとの関係が断ち切れるからだ。

(さて、僕も……)

 ラルフを教室に連れて行った後、エイルは自分が卒業試験を受ける教室へ向かった。一時間目のテストの内容は歴史で、エイルは歴史を苦手としていないが得意というわけではない。それに、歴史は暗記だ。

 懸命に記憶の奥底を探り、覚えた内容を思い出さないといけない。エイルは椅子に腰掛けると、歴史の教科書を開く。卒業試験の範囲は想像以上に広いので、一部分を覚えたところでたいした点数にはならない。その為、一頁目から軽く目を通し歴史の流れを再度確かめていく。

 普段のテストであったら数人のクラスメイトがエイルに声を掛けてくるが、その時間も惜しいのだろう、誰もが教科書と睨めっこしている。また、ボソボソと単語を呟いている者もいた。

 その時、教室の扉が開いた。それ同時に下を向いていた生徒達が一斉に顔を上げ、扉を開いた人物の顔を見詰める。その人物というのは、試験監督の教師。手には試験用の用紙を持ち、一言「はじめます」と、言った。刹那、教室中に張り詰めた緊張感が広まっていく。