ロスト・クロニクル~前編~


「まさか、基本を忘れたとか?」

「……そうかも」

「お、お前……」

「最近、込み入った研究ばかりやっているから、大事な部分を忘れてしまったのかもしれない」

 ラルフの発言を聞いた瞬間、エイルは脱力感を覚える。彼の場合、実験や研究は天才的才能を発揮するのだが、いかんせん応用し過ぎて肝心の基礎が明後日の方向に飛んでしまった。

 どうやら卒業試験を前に、忘れてしまった基礎を勉強し直そうと思っているのか。その心意気は素晴らしいことだが、どうしてエイルに参考書を借りに来たのかは不明な点が多い。

「なくした」

「真剣に探したのか?」

「勿論。でも、なかったんだよ。だから、エイルに参考書を借りに来たんだ。本当は、教科書がいいけど」

「何で、教科書を……」

「無くした」

「進級したからって、昔の教科書が必要じゃなくなったというわけじゃないって、メルダースでは常識だぞ」

「だから、貸して欲しいんだ。本当は教科書がいいんだけど、無くすかもしれないから参考書を……」

「本当に、お前は……」

 メルダースの卒業試験の範囲は、半端ではない。下手すると、全学年で学ぶ内容が一気に出題されるからだ。それを知っているので、生徒達は教科書を大切に仕舞い復習に利用する。

 だというのに、ラルフは簡単に無くしてしまっている。これもラルフの特徴か、それともエイルに借りればいいと楽に考えているからか。しかし互いに専攻しているジャンルが違うので、全部貸すことはできない。それでもいいのなら、別に貸してもいい。ただし、無くしたら窓から吊るすと脅す。

「本気?」

「当たり前だよ。僕も、勉強に必要だからね。それを無くしたとなれば、吊るすしかないだろう」

 普段のラルフであったら、ここまで言われたら「いらない」と言うのだが、今回は大事な卒業試験が絡んでいるということで貸して欲しいと頼む。それだけ、参考書が必要だった。彼の熱意に負けたエイルはやれやれという素振りを見せると、仕方なく薬草学の参考書を貸すことにした。