それも今となればいい思い出となっているが、しみじみと浸っている場合ではない。エイルは卒業試験を一回で合格するつもりでいるので、上手くいけば数ヶ月でラルフと別れることができる。
親衛隊の隊員になるのと、ラルフとの決別。
この二種類の目標の為に、エイルは勉学に勤しむ。勿論、本命の目標は親衛隊の隊員になることだ。
エイルは使用しているペンを器用に回転させると、使用していた参考書を閉じ別の参考書を開く。先程まで地理の勉強をしていたのだが、長く同じ分野の勉強を続けていると疲れが溜まってしまうので、暫く休憩を入れる。しかし、勉強を忘れたわけではない。その証拠に、会話をしつつ新しいテーブルの上に置かれた参考書の中から必要な物を選んでいく。
「話は変わるけど、就職は?」
「……まだ」
「前は反対したけど、研究所一本に絞ってみれば? お前はぶっ飛んだ部分があるけど、ある一点では天才だから」
「何だか、引っ掛かる言い方」
「本当だから、仕方がないじゃないか。これは、皆が認めているし。でも、才能は評価している」
「うーん、素直に喜べない」
聞き方によっては苦しい褒め方とも取れなくもないが、エイルは本心でラルフを褒めていた。
本当に才能がなければ、山百合を進化させることができない。それに、難関のメルダースの進級試験を一回失敗しただけで他は合格している。ラルフはある部分を除けば、天才である。
それを使わない手はない。エイルの説明に、ラルフは真剣に考え込む。どうやら、研究所の就職試験を受けてみようと思いはじめたようだ。なんだかんだ文句を言い貶しているが、エイルはラルフの将来を心配している。このように、就職先の相談に乗っているのだから。
しかし、全ての面で彼は優しいわけではない。やはり本質の部分では、ラルフと別れたい。
要は、これは保険である。何かの間違えで卒業試験が合格してしまうと、一緒に卒業を迎える。
そしてその時期に就職が決まっていないと、ラルフがエイルの故郷のクローディアについてくるかもしれないからだ。これはあくまでも憶測の範囲だが、彼の日頃の行動を考えると油断できない。最悪の場合、クローディアに住み着き就職先を見付けてしまう可能性も高い。


