ロスト・クロニクル~前編~


「勉強は、教えないぞ」

「いいよ」

「うん? いつもと反応が違う」

「本当は教えてほしいけど、卒業試験は分野が違うし。だから、一緒に勉強するだけでいい」

「……変わった」

 例の演劇の件から、ラルフは確実に変化している。クリスティに褒められたことが相当利いたのか、このように真面目に勉学を励むのはいいことだ。それに、頼られなくなったのが一番いい。

 エイルは、何が何でもメルダースを卒業しないといけない。でなければ、折角親衛隊の試験に合格したことが無駄になってしまうからだ。それに不合格が決定した時点で、一族の名前に泥を塗る。

 卒業試験を控えている生徒はそれぞれ苦労を抱えているが、エイルは他の生徒以上に複雑な背景を背負っている。だから誰かに頼られることなく勉強に励めるのは、実に有難かった。

「でも、卒業って早いな……」

「何、しんみりしているんだ」

「いや、何となく」

「しんみりしてもいいけど、まだ卒業も決まったわけじゃないし。まあ、わかる気がするね」

「だろう」

「ラルフと出会った頃が懐かしい」

 彼の言葉には、いい意味と悪い意味が半々含まれている。悪い意味では「珍獣」と呼ばれるラルフに出会い、平穏な学園生活が失われた。いい意味では「珍獣」に出会い、刺激的な毎日を送れている。

 当時を思い出したのか、エイルはクスっと笑い出す。そして途中で余程面白いことを思い出したのか、噴出していた。

「な、何?」

「冬の時期、氷が張った池に落ちたな」

「あ、あれは……乗れると思ったから」

「明らかに薄かったぞ」

「こ、好奇心が先に立った」

 実に、ラルフらしい考えた方だ。しかしその「好奇心」の影響で、オオトカゲを飼育したりマルガリータという奇怪植物を育てている。馬鹿と天才は紙一重というが、ラルフの場合はどちらかといえば馬鹿の要素が強い。そして、多くの生徒達――特に、エイルに迷惑を掛けた。