ロスト・クロニクル~前編~


 レナードは強い口調で、過去のウィルソンの行動を周囲に聞こえる形で指摘していく。するとこの指摘が自分に不利に働くと判断したのか、彼は横を向いてしまう。それを見たレナードとレイファスは、ウィルソンに不信感を抱く。やはり、彼は信用できる人物ではない。

 しかし、ウィルソンという人物は気に入った相手が何処の誰であっても必ず手を出す。彼は曲者の本性を前面に押し出し、ナタリーに迫ってくる。そして彼女の両手を掴み、歯が浮く言葉を言い続け、周囲でやり取りを見ていた女性達の身体に蕁麻疹を浮き立たせ嫌悪感を抱かせる。

 また中には、彼の言葉に吐き気を催す者も続出する。勿論、ナタリーも相手に嫌悪感を抱いていた。

 それでも夜会に参加している全員が自分より身分が上の人物なので、ウィルソンに嫌な顔はできない。

 だが、それが災いを招く。

 ウィルソンはナタリーが自分に好意を抱いていると勘違いし、更に歯が浮く言葉を続けていった。こうなると、ナタリーは何も言えなくなってしまう。お陰で、悪い方向に物事が流れていく。

 だが、ウィルソンの暴挙が続くわけがなかった。二人の間を割って入るように、レナードが口を開いたのだ。

 それは、ナタリーへの愛の告白。

 本来であったらこのような状況で告白するべきではなかったが、ウィルソンの魔の手から彼女を救い出す為にはこれしかなかった。レナードの突然の告白に、周囲から黄色い悲鳴が上がる。

 普通の状況であったら彼の告白に会場は歓声に包まれるのだが、現在の状況を考えると素直に盛り上がれない。

 刹那、ウィルソンが怒りを露にした。

 彼にしてみれば、レナードは横恋慕の相手。そして自分の幸せを邪魔する憎い相手であり、排除の対象になってしまう。

 ウィルソンは、子供っぽい発言を続け幼児のように暴れる。そのあまりにも自分勝手の言葉と行動の数々に、レナードとレイファスは互いの顔を見合わせ、溜息と同時に肩を竦める。

 彼の発言は、実に耳障りな内容だった。しかし、彼の身勝手な発言がこれで終わったわけではない。

 何を思ったのか、ウィルソンはレナードに衝撃的な提案をしてきたのだ。それは、ナタリーを賭けて決闘を行うというもの。その提案に、周囲の雑音が消え去った。そして一拍置いた後、レナードが本気か尋ねる。彼は失礼ながら武芸に長けている人物ではないので、怪我では済まされない。