ロスト・クロニクル~前編~


 身分は関係ない。気に入れば、相手が貴族だろうが商人の娘だろうが手に入れようとする。勿論、その中に平民も含まれている。だからこそ、レイファスますます頭を痛めていく。絶対に、トラブルを起こさせるわけにも行かない。といって、いい方法が思い付くわけでもない。

 レイファスは夜会当日まで、隣国の困った王子の対策について悩み続ける。しかし、これといって答えは見付からない。そして頭痛を抱えたまま、運命の当日――夜会に、舞台が移る。


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 其処で大幅に舞台背景が変更されるので、数分演劇が中断してしまう。本物の団員達が行なっているのなら、こういうことはないだろう。素人集団が行なっているので、これは仕方がなかった。

 このことに関しては演目を見ている者達も知っているので、特に文句を言うことはしない。それどころか多くの者がメルダースの生徒の演劇力の高さに驚き、楽しんでいるのだった。

 その間、役を演じる生徒の衣装が交換されていく。舞台袖は慌しく、まるで戦争が行なわれているようだった。だが苦労の中にも面白さがあるのか、どの生徒の表情が実に明るい。

 道具係の生徒が舞台背景の変更が終了したことが伝えられると、役を演じる生徒の表情が強張り真剣な面持ちに変化する。そして互いに気合を入れ直すと、演劇に集中するのだった。


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 王家主催の夜会ということもあり、参加者は貴族に高位の商人が目立つ。紳士淑女は会話を楽しみ、時に躍り合う。そしてレナードの誘いを受け夜会に参加したナタリーは、レナードに特別に用意して貰った美しいドレスを纏い、煌びやかな宝石を身に付け会場にいた。

 ナタリーは身分が身分なので、このような物を身に付けた経験はない。彼女の身体は硬直しぎこちないものだったが、見た目は貴族の令嬢そのもの。誰も、侍女として城で働いている娘と気付いていない。

 レナードはナタリーと夜会に参加できることが嬉しかったが、内心何処か複雑であった。その理由として、隣国の王子ウィルソンのことがあったからだ。勿論、レナードも彼の特徴を知っている。知っているが王子という立場上、彼を呼ばないわけにもいかなかったのだ。