ロスト・クロニクル~前編~


 そして長い拍手の後、静寂が会場を包む。それを見計らったかのように、演目「王子様と私」が、開始する。


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 今回の演目「王子様と私」は、一般的に女性が好む話に仕上がっているので、役を演じる生徒達の動作に、特に十代の女性は一喜一憂し、中には完全にその役になりきる者までいた。特に城勤めの侍女というものは簡単になれるものではないので、彼女達の目が輝きだす。

 物語の主体となるのは、一国の王子と侍女の物語。その物語のテーマというのは「身分違いの恋」というもので、演目の最初からその要素が色濃く前面に表れた内容となっていた。

 今、ヒロインのナタリーが侍女仲間と一緒にお茶とお菓子を食べつつ、わいわいと恋愛話をしている場面。

 彼氏がいるか。

 誰が好きか。

 彼女達が語る内容に、会場から黄色い悲鳴が上がる。その声音は予想以上に周囲に響き渡り、暫く演劇が中断してしまう。しかし同じように演劇を見に来た者に注意され、一瞬にして黄色い悲鳴が止まった。

 それを見計らったように、止まっていた演劇が再会する。そして、静寂の中に台詞が響く。

 ナタリーが好意を抱いている相手というのは、この国の王子。勿論、恐れ多い相手なので、彼女の想いは日に日に募っていく。そして互いに身分が違い過ぎるので彼女の想いは心の奥底に封じ、一生言葉として表現していいものではない。というのが、一般的な身分違いの恋愛。

 今回の話は女子生徒の理想と願望と妄想がたっぷりと詰まった話なので、物事が都合のいい方向に動き王子レナードの方からナタリーに声を掛けてきた。それも、好意的な意思を示し。

 裏設定でレナードはナタリーに好意を抱いていることになっているので、両者は相思相愛の関係。だが、互いの立場がそれを阻み「好き」という感情を言葉に出すことができなかった。

 それでも、側にいたい。

 その感情がレナードを動かしているのか、ナタリーを呼び一緒に何処かへ行く。という話となっており、観客達――特に女の人を楽しませている。いや、楽しんでいるのは観客だけではなかった。舞台袖で見守っている裏方の面々も、目の前で繰り広げられている光景を楽しんでいた。