「飯を食べたら、着替えないと」

「一緒に行く」

「馬子にも衣装」

「うわ! 酷いな。そう言われないように、立派に演じるぞ。周囲の評価も、変わってほしい」

 素早くサンドイッチを食べ終わると、ラルフは拳を突き上げ自分の目標を宣言していく。普段とは違う立派な姿に、エイルは思わず拍手を送る。この演劇では、そのような目標は必要だ。

 もし失敗してしまったら、テスト免除は夢と消えてしまう。尚且つ、クリスティの雷が落下する。エイルの何気ない言葉に、ラルフはブルっと身震いする。それだけ、身体にクリスティの恐怖が染み付いていた。

「が、頑張ろう」

「そうだね。よし、着替えに行こう。衣装係が、衣装を用意してくれているから。ふう、大変だ」

 エイルは手に付いたカスをパンのカスを叩くと、衣裳部屋として使用している教室へラルフと向かった。

 衣装部屋を開けた瞬間、所狭しと並んでいる絢爛豪華な衣装が視界の中に飛び込んでくる。その色とりどりの衣装の数々に、ラルフは圧倒されてしまう。と同時に、胸が高鳴った。

「いい?」

「どうぞ」

「待っていたよ」

「宜しく」

「じゃあ、俺達はラルフで……」

 衣装係が言う「じゃあ」という言葉に、ラルフは精神的にへこみそうになってしまう。湿り気たっぷりのオーラを放つラルフの肩をエイルは軽く叩くと「気にするな」と、励ます。

 それに周囲の評価を払拭したいというのなら、演劇で見返せばいい。エイルはラルフに元気を与えるように耳元で囁くと、一瞬にして普段の調子を取り戻したのかラルフが復活を果す。彼が元気を取り戻してくれたことにエイルは嬉しそうに笑うと、自分の衣装が用意されている場所へ向かう。

「これ?」

 テーブルの上に置かれている衣装を指差すと、衣装係に尋ねる。その質問に衣装係は軽く頷き返すと「着替えるのを手伝う」と言葉を返して来るが、エイルはそれを断った。これくらいの衣装は、自分で着ることができる。それ以前に、付け髪を早く用意してほしかった。