ロスト・クロニクル~前編~


「本当?」

「何故、嘘を言わないといけない」

「だよな」

「そういうことだから、僕は王子様じゃない。そして、変な意味での期待をしないでほしいね」

 自分の実家に付いて正直に話していくが、ラルフの性格を考え先手を打つ。彼の場合、絶対に余計な計画を練りだす。特に以前、実家に遊びに行きたいと駄々を捏ね迷惑を掛けていた。

 それを考えるとエイルが貴族の息子とわかった今、行動はひとつしか考えられない。ラルフは身を乗り出すと素直に言いたいことを言葉に表そうとするが、エイルが許すわけがない。

「行く」

「駄目」

「何で?」

「駄目なものは駄目だ」

 低音の声音で、相手の提案を綺麗に横に流す。だが、ラルフも簡単に諦めない。何が何でもエイルの実家に行きたいのか、しつこいほど食い付いてくる。その結果、台本で頭を叩かれてしまう。

「叩くな」

「無理を言うからだ」

「無理なのかな?」

「無理だね。こっちだって、都合っていうのがあるんだ。それに、父さんは仕事で忙しいから」

「そ、そうか」

 流石に、そのように言われたら引き下がるしかない。彼の両親も仕事が忙しいので、エイルが言いたいことはわからなくもない。だが、心の中で「行きたい」という気持ちがないわけでもないが、今回は引き下がることにする。それにこれ以上の発言をしては、手が飛んできてしまう。

 それを恐れたラルフは、エイルの実家に付いての発言を控えることにした。急に静かになったことにエイルは不思議に感じるが、これはこれで有難い。ふと、エイルは腰掛けていた椅子から立ち上がると、ラルフに違う場所で再び練習を行なおうと提案するが、彼は拒絶の意思を示す。

 しかし、エイルが許すわけがない。彼はラルフの襟首を掴むと、強制的に立ち上がらせると、扉の前まで連れて行く。そして押し出すようにして部屋から出すと、練習の場所まで引っ張っていく。現在、演劇の練習に使ってもいいということで、夜の時間帯でも一部の教室が使用可能となっていた。