しかし、長く説明を聞いている暇はない。エイルの休憩時間は一時間なので、その間に終わらせないといけなかった。エイルの指摘に相手は裁縫道具を持ってくると、いそいそと作業をはじめていく。
仮縫いの作業の最中は動くことができないので、エイルは暇潰しという形で作業を行なっている者達に視線を向けた。ある者は型を取り、ある者は裁断を行なっている。そして違う者は、白い紙に想像した衣装を描いていた。その全員が真剣な面持ちを浮かべ、懸命にひとつの衣装を作っている。
誰もが、今回の演劇を成功させようと努力している。全ては「テスト二回免除」の為に――
ふと、部屋の隅に置かれている変わった物体に目が行く。この物体は見間違いでなければ、付け髪という代物だ。相当数を用意しているのか、黒に青に赤と一通りの色彩が揃っていた。
「誰か、付けるのか?」
「あん? ああ、付けるか?」
「僕はいいよ」
「似合うと思うが……」
「長い髪は、あまり好きじゃ……」
「試しに、付けてみればいいじゃないか。お前の髪に合う付け髪があるはず。よし、やるか」
「その前に仕事だ」
エイルの鋭い指摘に相手は冗談と言いヒラヒラと手を振ると、中断していた作業を再開する。
あのように言ったが、エイルは付け髪に視線を向けていた。言葉では「嫌い」と言ったが、暫く考えていると付けてもいいのではないと思えてくる。それに今まで、髪を伸ばした経験はない。
一度くらいは――
しかし、本音を言葉として発することはしない。したらしたで、本来の仕事を忘れて此方に集中してしまう可能性が高かった。それに舞台衣装が仕上がらなかったら、話にならない。
エイルは話したい真情を抑えつつ、仮縫いが終わるのを待つ。すると手早い作業のお陰で、すぐに作業が終了した。長時間立ち続けていたので、両足が痛い。エイルは痛む足を揉むと、その場で簡単な運動をはじめた。
作業を行っていた者はこれまた手馴れた手付きで仮縫いの衣装を畳むと、胸を張りこれで終了だという。それを聞いたエイルは軽い口調で「行く」と言い残すと、読み合わせが行なわれていた場所へ戻って行くと、ちょうど休憩が終わったのか読み合わせが開始された。


